閣をめぐる問題で台湾を訪問、李登輝元総統や羅福全・台湾安保協会理事長(元台北駐日
経済文化代表処代表)などに取材、台湾の人々が尖閣問題をどう見ているかを八谷千尋君
(熊本大学3年)が「SANKEI EXPRESS」にレポートしている。
レポートの冒頭に出てくる陳俊宏氏は日本留学経験があり、流暢な日本語を話し、現在
は日台貿易を営んでいる。SANKEI EXPRESS掲載の李登輝元総統などへの取材写真は以下。
http://sankei.jp.msn.com/world/photos/121127/chn12112716130005-p3.htm
取材に応じてくれた台湾の李登輝氏(右)=2012年9月7日、台湾(全日本学生文化会議撮
影)
http://sankei.jp.msn.com/world/photos/121127/chn12112716130005-p2.htm
台湾の人たちに尖閣問題を取材したが、話が感情的になることはなかった=2012年9月8
日、台湾(全日本学生文化会議撮影)
海外から見た尖閣問題(下) 台湾 総統の領有権主張に冷ややかな目
【SANKEI EXPRESS:2012年11月27日「Campus新聞」】
尖閣問題で、日中関係が悪化するなか、台湾も「尖閣は中華民国(台湾)の領土だ」と
主張し、日本への批判を強めている。台湾の人たちは、この問題をどう考えているのだろ
うか。
■単なるパフォーマンス
「馬英九総統の愚かな行為ですよ」。30 代の陳俊宏さんは、つぶやくようにそう言った。
馬総統が(2012年)9月7日に台湾最北端の離島、彭佳嶼に上陸し、「日本政府の尖閣国
有化の動きを認めない」とアピールした出来事のことだ。
「馬総統は、この島は尖閣諸島に最も近い台湾の国土だと言っていますが、尖閣からは
約140キロも離れています。単なるパフォーマンスです」。多くの台湾人は、この一件を冷
めた目で見ているという。
中国では、尖閣問題をめぐって9月に大規模な暴動が起こり、日本企業の工場や店舗が破
壊、略奪を受けたが、台湾ではこうした暴動は皆無だった。唯一の例外は9月1日に、交流
協会台北事務所(在台湾日本大使館に相当)にペンキが投げつけられたことくらいだろ
う。しかし、これについても、多くの台湾人の気持ちを代弁する行為とは、言えないようだ。
「あれは中国に扇動された人間がやったこと。日台分断策動です。台湾人としては非常
に迷惑な話です」。2004年まで駐日代表を務めていた羅福全氏は、こう苦笑する。羅氏は
「日・米・台の連携がアジアの安定には欠かせない」と考えている。
実際、尖閣諸島を台湾の領土だと言う人にも取材をしたが、話が感情的になることはな
かった。また、台湾の人の方から尖閣問題を話題にするということも一度もなかった。
尖閣問題で日本と事を荒立てようとしているのは、ごく一部の人であるように思えた。
■「統一」「独立」の間で
台湾の人たちは中国のことをどう思っているのだろうか。
台湾では今年1月に行われた総統選挙で、中国との関係改善を進める国民党の馬英九氏が
再選された。羅氏によれば、馬氏の勝利は、「三ない政策」の結果だという。「三ない政
策」とは、中国と台湾は「一つの中国」であることを認め、「統一しない・独立しない・
武力行使しない」の原則維持で中台交流を拡大するものだ。
「台湾の独立を中国は到底容認しないし、ゴタゴタを嫌う米国も反対。当然日本も賛成
しない。誰も賛成しないから難しいと、多くの台湾人は思っています」と、羅氏は言う。
20代の台湾大学の女子学生は、「マスコミは、中国との関係を強化すれば経済が上向く
と報道しています。台湾独立に賛成だけど国民党に投票した人がいます」と話してくれた。
20代の男子学生も「中国と一つになるのは絶対嫌です! でも国際的な環境を考えれば
独立は難しいと思います。ただ、馬氏のような親大陸派が総統になっても、統一を言い出
せないのだから、今はとりあえずこのままでもいいのではないでしょうか」と、現状を容
認している。
台湾の独立を支持する国がないことが、「独立」という選択肢を奪っているのではない
かと感じた。
■漁業権は認めてほしい
親日家として有名な李登輝元総統は「日台は運命共同体だ」と主張する。両国は経済的
にも文化的にも安全保障上もお互いを必要としているという。 「尖閣諸島は日本の領土
だよ。証拠もある。でも、漁業権だけは認めてほしい。台湾の漁民はずっとあそこで漁業
をしてきたんだ。日本はリーダーシップを発揮してほしい」と、李氏は訴える。
日中間には漁業協定があるが、台湾との間にはなく、台湾漁船が尖閣周辺の日本の排他
的経済水域(EEZ)内で操業すれば摘発の対象となる。
こうした日台間の懸案事項を一つ一つ解決していき、台湾との関係を強化していくこと
が、中国を牽制(けんせい)することにつながるのではないかと感じた。
(今週のリポーター:「全日本学生文化会議」 八谷千尋(熊本大学3年)
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■全日本学生文化会議
わが国の歴史と伝統、国柄やアイデンティティーを踏まえ、大学生の立場から、外交や
教育問題などに取り組んでいる全国的な学生のネットワーク。沖縄の普天間基地移設問題
や尖閣諸島問題についての見識を深めるための沖縄遊学や拉致被害者救出のための活動な
どを行っているほか、大東亜戦争で亡くなった英霊の顕彰事業として「殉国沖縄学徒顕彰
祭」(6月23日)、「大東亜戦争戦歿全学徒慰霊祭」(10月)を開催。また、明治維新を切
り開いた志士たちの足跡をたどる歴史探訪や、皇室と国民の間に生まれたドラマを取材す
る聖蹟調査、皇居や赤坂御所での皇居勤労奉仕(9月)などに取り組んでいる。機関誌「大
学の使命」を発行(年会費3000円)。