台湾の抗議船「全家福」が尖閣諸島・魚釣島近くの領海に近づいた。全家福に乗船して
いたのは、中国本土、香港、台湾などで活動する中華保釣協会の一員で、台湾当局として
も迷惑な存在だ。昨年8月、尖閣諸島周辺で、海上保安庁の巡視船に投石したうえで不法入
国をした香港の抗議グループを送還措置にしたことが、中華保釣協会の動きを助長した。
26日付本紙によると、台湾は、抗議船の出港に関し「中華民国(台湾)は、自由民主国
家であり、法律上の問題がなければ遊漁船の出港を阻止できない」と事前に日米に通告し
たという。無害通航権が保証されている海上において、全家福の出港を止める権限を台湾
当局は持たない。事前通告は日米への最大限の配慮である。そして、4隻の巡視船を同行さ
せ全家福の行き過ぎた行動を抑止するとともに、海上保安庁による法執行を牽制(けんせ
い)していたのだ。
許しがたいのは中国の海洋監視船である。台湾の苦悩を利用し、あたかも台湾と連携し
ているかの如く動いた。これは、中国の主張である「尖閣諸島は台湾の一部であり、中国
領土である」ことを正当化しようとしたものだ。中国国内では、日中関係の冷え込みが国
内経済にも影響を及ぼし始め、政府は日本を挑発する大胆な動きは取りづらい状況だ。そ
こで、中華保釣協会が動き、台湾当局も巻き込もうとしたようだ。
また、すでに準備会合が行われた日台漁業協議への妨害工作とも考えられる。台湾は、
日本が東シナ海の排他的経済水域における漁業の一部を認めれば、尖閣諸島周辺では紛争
は起こさないとしている。台湾と日本の連携は、中国当局としては絶対に阻止したいとこ
ろだろう。
日本政府は日台漁業協議を進め、中国により乱された東シナ海の平穏を取り戻す必要が
ある。過去16回開かれた協議では、互いの融和点を見つけることができなかった。この協
議は、水産庁が中心となっているが、台湾という外交上の特異性と安全保障を考慮する
と、総理が本部長を務める内閣官房総合海洋政策本部の役割だ。東シナ海の安定は、総合
海洋政策本部の機能に懸かっているのである。 (東海大教授)