渡辺利夫×西岡力「朝鮮・台湾の日本統治─なぜ、かくも評価が異なるのか」

月刊「正論」12月号(11月1日発売)が「韓国の?虚史?を正す」と題して特集を組み、渡辺利夫・拓殖大学学事顧問と西岡力・麗澤大学客員教授が「朝鮮・台湾の日本統治─なぜ、かくも評価が異なるのか」、八幡和郎・評論家の「日韓国交正常化交渉 妥協強いられたのは日本」、金基洙・韓国弁護士の「偽りの『集団的記憶』国家」の3本を掲載している。

 本会会長でもある渡辺利夫・拓殖大学学事顧問と西岡力・麗澤大学客員教授の対談は、かつて同じ日本の統治下にありながら、台湾は親日、韓国は反日となり、なぜ日本統治への評価がかくも異なるのかがテーマで、台湾関係者ならずとも興味深いテーマだ。

 渡辺会長のポイントは、別掲で紹介した産経新聞(11月6日付)「正論」欄に掲載された「『反日韓国 親日台湾』由来は何か」で記しているのでご参照いただきたいが、要約すれば以下のようになろうか。

 台湾には、日本が継承すべき歴史や文化は何もなく、その後の開発を遮るものがなかったかったことが幸いし、日本の社会秩序と社会規範が台湾に根付き、戦後の国民党による苛烈な政治でも日本時代の社会秩序と社会規範は崩れず、李登輝氏による民主化の時代に入るとともに記憶が鮮やかに蘇り、台湾アイデンティティの淵源となった。それが親日台湾の由来だという。

 一方、朝鮮には李朝と呼ばれる500年余も続いてきた王朝国家があり、支配エリート両班の中に強い「小中華思想」という観念が刻み込まれていたため、36年の統治くらいではその観念は払拭されなかった。それが反日韓国の由来だと指摘している。

 この対照的な台湾と韓国の日本統治観の違いについて、西岡氏と対談でさらに掘り下げたのが「朝鮮・台湾の日本統治─なぜ、かくも評価が異なるのか」だ。「正論」欄はそのエッセンスだ。

 産経新聞のネット版では、12ページにわたる対談の冒頭4ページほどを紹介しているので、下記にご紹介したい。

 惜しむらくは、昭和15年(1940年)2月に朝鮮では「創氏改名」、台湾では「改姓名」として導入された政策について言及されていないことだ。この政策への台湾と朝鮮の対応を比較することで、いっそう台湾と朝鮮の違いが浮き彫りになったに違いない。

 ただ、これまでも、台湾の親日と韓国の反日の由来について言及する論考はあまたと言っていいほどあったが、それぞれの淵源についてこれほどあざやかな対照ぶりをもって論じているものは少ないように思う。熟読いただきたい。

—————————————————————————————–渡辺利夫・拓殖大学学事顧問×西岡力・麗澤大学客員教授「朝鮮・台湾の日本統治─なぜ、かくも評価が異なるのか」【月刊「正論」2019年12月号】https://www.sankei.com/premium/news/191102/prm1911020005-n1.html

渡辺 対談のテーマは「朝鮮統治と台湾統治はなぜ、かくも評価が異なるのか」ということです。同じ日本統治下におかれながら台湾と朝鮮とではその評価が大きく異なっています。それは何故かということを考えていきたいのですが、話の順番として韓国という国が一体どのような国なのか、このことをまず論じ、それとの対照で、台湾とはどんな地域だったかという具合に話を進めていきませんか。

西岡 私が大学院で書いた修士論文のタイトルは「韓国人の日本観」というものでした。実はこの論文、指導教官は渡辺先生で、先生に判子を押していただいたお陰で私は修士をいただけたんですね。以来、渡辺先生には、ずっと足を向けられない(笑)。先生がほぼ一年間にわたって本誌に連載された「小説台湾」が前号で終了しました。先生お疲れさまでした。本日のテーマは韓国だけでなく台湾統治も視野に入れたもので、先生のお話を楽しみにしています。

渡辺 長い付き合いですが、対談は初めてかな。韓国はなぜ反日的な存在なのか、という点から考えてみませんか。韓国は牢固たる反日国家です。その理由の一つに韓国という国家が「華夷秩序」観に呪縛されていることがまずあると思います。すでにこの論点は多くの人が指摘していることではありますが、韓国−朝鮮と言ったほうがいいかもしれません−は極めて強固なイデオロギー国家でした。それは今も変わらない。イデオロギーの中身はいろいろですが、ここでまず取り上げたいのは、「小中華思想」です。華夷秩序に基づく小中華意識が今も韓国の、特にエリートの胸中を満たしていることは間違いないでしょう。

 清朝という王朝は実は満州族という、「蛮夷」によってつくられた征服王朝ですよね。これは朝鮮には「清王朝は正統的な中華王朝ではない」と捉えられ、実際、そう見ていたわけです。それは、「中華王朝を正統的に継承、後継しているのは自分たち朝鮮だ」という考えになる。これがまさに小中華思想ですが、朝鮮人の考え方では、小中華思想こそが中華思想の神髄だとなる。

 朝鮮の清国に対する「事大主義」のことがよくいわれます。多くの人は、地政学的に見てあの巨大な中国を隣国として抱えているのだから、朝鮮が中国に仕えることが当然というイメージで事大という言葉を使っていますが、果たしてそれだけでいいのでしょうか。

 もちろん、そうした面はなくはない。確かに地政学的な視点で見ればその通りなのでしょうが、実は、朝鮮人が考えていたのは、小中華こそ中華思想のエッセンスだということです。大国、中国になびく事大はあくまで形式上のことであって、本質ではない。事大についてさまざまな解釈はできるでしょうが、小中華こそが中華よりも中華的なるもの、あるいは、中華思想をより純化したものが小中華なのだ、と考えられていたのですよね。

 日本など、朝鮮からみれば、これはとんでもない「蛮夷」の国だとなってしまう。日本という国は道徳もなければ正義もない。そういうイメージや意識が現代の韓国にも残っているんじゃないでしょうか。改めていわゆる「従軍慰安婦問題」とは何だったのかを見つめ直してみますとね、韓国人にとって「従軍慰安婦問題」とは、蛮夷である日本が典雅なる王朝、朝鮮の子女を陵辱したという、もう、どうにも許せないという感覚になってしまうのではないか。いくら日本が事実を積み上げて説明しても、彼らは全くと言っていいほど聞く耳を持たない。それは日本が蛮夷の国で道徳も正義もない国だからですよ。そうした発想は中華思想から導かれた小中華思想に由来する。中華思想がはらんでいる恐ろしさ、おぞましさだと感じます。

 日韓併合前に四回、モンゴロイド調査のために朝鮮を訪れたイギリスの女性人類学者、イザベラ・バードが記した「朝鮮紀行」(講談社学術文庫)もそうした朝鮮理解に立って記述している。彼女も私と似た解釈、見方をしているんです。それは李朝時代だけでなく、今日に至るまで連綿と彼らの心の奥底に宿って続いている。慰安婦問題もそのひとつだし、今も彼らに根付いた思考なのです。

西岡 私にとって韓国人の日本観というテーマはまさに専門でして、最近は北朝鮮の話題を取り扱うことが多いのですが、本来はそのテーマを追いかけ続けてきました。さきほど述べた修士論文というのは、韓国で一九五三年から七十年代まで発行されていた月刊総合雑誌『思想界』に掲載された日本関係記事論文を全部集めて分析したものでした。大雑把にいえば、七割近くが反日で、その論理は、大きく二つに分けられる。そのうち一つが「日本の過去の侵略を許さない」という反日ですが、その底にある論理が華夷秩序に根ざした忘恩背徳論でした。つまり、朝鮮が日本に文化を教えてあげた、にもかかわらず日本はその恩を忘れ、恩人を支配するというとんでもない背徳行為であって通常の植民地支配とは異なっている、というものです。

 一般的に植民地支配とは文明国が非文明国を支配し文明化する、というものです。ところが、韓国を植民地支配する話は、われわれのほうが文明国だったのに、華夷秩序の位では夷狄であるはずの日本に支配された。韓国国内には仮に韓国がイギリス、フランスの植民地になっていれば、日本語ではなく英語やフランス語が話せた。そう考えただけで悔しいという議論さえ、存在します。

 ただ、全体の二割から二割五分ぐらいはそうではない、という理屈も存在します。当時の国際社会は弱肉強食で、韓国が弱かったから植民地支配されたのだ、だから日本が進んでいる部分については日本から学ぶべきだという考えもあるのです。

 一口に華夷秩序が反日をもたらしたというけれども、日本の侵略に反対する華夷秩序による反日もあれば、それとは別に二つ目である「反共の反日」も韓国内にはある。「日本はなぜ共産主義に甘いのか」「どうして在日朝鮮人を北に送ったりするのか」「共産主義国に自由主義陣営の人間を送るなんて逆はあってもあり得ない話ではないか」「日本は共産主義について分かっておらず、自由主義陣営にいながら一緒に戦ってないじゃないか」というのです。そうした反日はリアリズムに根ざしており、反日ではあるが日本に学べという主張にもつながる。そうした考えが存在することは見逃すべきでないと思っています。

渡辺 日本を克服すべしという克日論というのもそうした系譜なのでしょうね。

西岡 克日論は八二年、全斗煥政権のときに出てきたものですが、もともとは今述べた反共の反日が先にあって、それが克日論へとつながったものです。「反日種族主義」をまとめたソウル大学の李栄薫先生のようなアンチ反日の主張もそうした流れです。渡辺先生がおっしゃるとおり、韓国では華夷秩序や儒教的なイデオロギーがもともと支配している。それは間違いない。知識人の多くが華夷秩序に囚われているのは事実ですが、それに果敢に挑戦する二〇%ぐらいの層も存在する。その代表例は朴正煕大統領でしょう。

(本誌編集部:対談の続きは月刊「正論」12月号をお読みください)

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