消滅の危機にあった「台湾語」が世界で評価  黄 文雄(文明史家)

消滅の危機にあった「台湾語」が世界で評価  黄 文雄(文明史家)

【黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」特別号:2021年7月26日】*読みやすさを考慮し、小見出しは本誌編集部が付したことをお断りします。

◆芥川賞を受賞した台湾人作家の李琴峰氏

 台湾人作家の李琴峰氏が日本語で書いた小説が芥川賞を受賞しました。彼女は台湾大学を卒業してから日本に留学し、日本企業に就職しながら小説を書き続けていたという経歴の持ち主です。

 しかも、彼女の小説の内容はとても複雑で難解で、様々なテーマが盛り込まれています。今回、芥川賞を受賞した作品『彼岸花が咲く島』は、言語、政治、人種、ジェンダーなど様々なテーマが盛り込まれています。これは母国語を使って書いても難しいことでしょう。

 一方、かつて彼女が安倍首相を激しく攻撃し、逮捕を望むかのようなツイートまで行っていたことが、一部から批判を受けています。

 芥川賞受賞の記者会見で記者から「忘れてしまいたい日本語」を問われ、「美しいニッポン」と答えたことも批判の的となりました。これは安倍首相が掲げていた「美しい国、日本」を意味していたと思われます。

 おかしな質問をした記者も記者ですが、川端康成はノーベル文学賞の授賞式で「美しい日本の私」という講演を行っていますから、李琴峰氏は、この川端が表した「美しい日本」を否定したとも受け取られる可能性があります。

 たしかに日本人でもない彼女が、他国の首相をそこまでこき下ろす理由はわかりませんが、まあ、日本でもアメリカ大統領についていろいろモノ申す人もいますので、それだけ日本の首相は台湾人にとって大きな存在だということでもあります。

 とくに台湾は親中派も独立派もいます。彼女の立ち位置はわかりませんが、ジェンダー問題へ関心や、蔡英文総統からの受賞祝いのツイッターにお礼を述べていることからも、台湾民進党寄りのリベラルではないかと思います。

 台湾の民進党は独立派で反中国ではありますが、同性愛婚を認め、反原発であるという、リベラル色が強い政党でもあり、日本の保守層とは意見がかなり異なります。そのあたりは、日本人がよく誤解するところでもあります。

◆台湾語の魅力

 それはともかく、李琴峰氏の今回の芥川賞受賞について、私は別の観点から注目しています。

 まず、過去の芥川賞・直木賞の受賞者である邱永漢や陳舜臣などは、日本語を母語とする世代でしたが、李琴峰氏は戦後世代で日本語を母語としない台湾人の受賞だということです。

 もうひとつは、最近、各国のメディアで「台湾語」という言葉を聞く機会が増えたことです。李琴峰氏の小説には「台湾語」は出てきませんが、言語は小説の中のテーマのひとつでした。

 短編アニメ映画「夜車」という作品は、台湾の金馬奨の短編アニメ賞を受賞した後、クロアチアの首都ザグレブで開かれた「ザグレブ国際アニメーション映画祭」で、短編アニメ部門でグランプリに輝きました。ザグレブ国際アニメ映画祭は米映画芸術科学アカデミー公認の映画祭で、短編グランプリ作品には米アカデミー賞への応募資格が与えられるため、アカデミー賞受賞の可能性もあるということです。

 監督は、謝文明氏という青年で、これまで制作した「肉蛾天」「禮物」と言った作品も高い評価を受けています。彼の作品の特徴は、台湾語が多用されていること。そして、人間の暗い部分を表現していることです。

 「夜車」は、最終バスを舞台に人の暗黒の部分を描きました。謝監督は、受賞した際に、「●南語のセリフについて、『とりわけ味がある。感情と魅力を増大させることができる』と言及。シューファンが台湾華語と●南語が入り混じったセリフを話すのは『台湾の現況』だとし『●南語を使えたのは嬉しい』と語った」、とのことです。(●=門構えに虫)

 もう一つ台湾語の快挙は、「台湾語で詩の書かれた絵本『情批』がボローニャ・ラガッツィ賞で優秀賞に」というニュースです。以下、報道を一部引用します。

<イラストレーター・阿尼黙(Animo Chen)さんが台湾語による詩で制作した絵本『情批(Love Letter)』(恋文)がこのほど、イタリア・ボローニャ国際児童図書展の中で行われるボローニャ・ラガッツィ賞ポエトリー部門で優秀賞に選ばれた。阿尼黙さんは昨年、『小輓』でヤングアダルト漫画部門大賞を獲得したのに続く受賞。

 阿尼黙さんは27日、報道陣に対し、二度目の受賞であり前回ほど興奮していなかったが、審査員のコメントで自分が母語で書いた作品であることに触れられているのを見てとても嬉しくなったと明かし、「母語で注目を集めたことに最も誇りを感じる」と語った。>

 台湾語で書かれた詩が、28カ国から210点の作品の中から、大賞1作品と優秀賞4作品の中に選ばれたわけです。中華圏ではない地域で、台湾語の作品が高い評価を受けているのです。

◆世界で評価される台湾語

 台湾は多言語社会です。かつては、共通の漢文があっても、共通の漢語はありませんでした。中国語は普通語として20世紀の中華民国時代に蒋介石とともに入ってきました。そして、台湾人は「国語運動」という名のもとに「普通語」を強いられました。しかし、毛沢東、蒋介石、孫文らは「普通語」ができませんでした。

 もともと「マンダリン(普通語)」は、北京の官僚たちが使っていた言葉「官話」でした。深刻な言語問題を抱えている中国は、二千余年も前に秦の始皇帝が中国を統一した際に、言語問題を解決するために官僚たちの話す言葉「官話」を普及させ、意志の疎通を図ろうとしました。それが「普通語」として民間に普及したのは中華民国時代からです。

 私が幼い頃の台湾は、客家語と●南語と日本語などが入り混じっていました。このような社会では、言葉が通じないことは日常茶飯事で、言葉が通じなければジェスチャーで、それでもダメなら筆談をします。

  政治の面では台湾は急速に世界に認められ、評価されています。それに続く形で、台湾のソフトパワーが勢いに乗っています。台湾語は、日本時代、そして戒厳令時代に禁止され、廃止されるところでした。一度は消滅しそうになった台湾語が、今こうして世界で評価されているのです。戦中世代の私にとって、実に感慨深いものがあります。

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