歴史を歪曲する方法 [産経新聞東京特派員 湯浅 博]

歴史を歪曲する方法 [産経新聞東京特派員 湯浅 博]
NHK「JAPANデビュー」問題で、本日の産経新聞1面で東京特派員の湯浅博氏が
日本文化チャンネル桜の現地取材を紹介しつつ、映画「靖国」を例にその「小細工」ぶり
を批判している。

 新聞とテレビの違いはあれ、同じメディアの人間も「JAPANデビュー」問題につい
て「『事実そのものを封ずる空気』というのは、いやなものである」と批判しているのだ。
恬として恥じないNHKの傲慢さが浮かび上がるばかりだ。

 4月26日放送の「たかじんのそこまで言って委員会」でも政治評論家の三宅久之氏らが
やはりこの番組を批判している。この内容は明日にでもご紹介するが、こちらは同じテレ
ビ界だ。NHKは今や四面楚歌と言ってよい。「番組の反響の中には、台湾の方々の証言
に感銘を受け、日本と台湾との絆を考える契機になったというものも少なくありません」
という回答が虚しく思えるのは編集子ばかりではあるまい。         (編集部)


歴史を歪曲する方法 産経新聞東京特派員・湯浅 博
【4月30日 産経新聞「くにのあとさき」】

 右であれ左であれ「事実そのものを封ずる空気」というのは、いやなものである。とく
に、歴史を扱うドキュメンタリー映像には何度もだまされてきたから、ハナから事実と思
ってみないクセがついてしまった。哀(かな)しいことに。

 つい最近も、台湾情勢に関心がある人ならすぐに「変だな」とテレビの小細工に気づく
番組がまたあった。日本が横浜開港から世界にデビューして150年間をたどるNHKの「シ
リーズ・JAPANデビュー」である。

 その第1回放送『アジアの一等国』を再放送で見た。テーマは50年に及ぶ日本の「台湾
統治」だから、制作者は植民地政策の悪辣(あくらつ)さを暴き出すことに熱心だ。台湾
人すべてを「漢民族」でくくるたぐいの荒っぽさが随所にあった。

 なにより『母国は日本、祖国は台湾』の著者、柯徳三さん(87)ら知日派台湾人が、筋
金入りの反日家として登場したのには仰天した。日本人も驚いたが、本人はもっとビック
リした。放映後、柯さんは担当ディレクターに「あんたの後ろには中共がついているんだ
ろう」と文句をいったと後に語っている。

 異民族による台湾支配だったから、当時の柯さんらが差別を感じていたことは事実だ。
番組でも、「私のいとこのお姉さんが、日本人の嫁になって日本へ行ったけれどね、戸籍
が入らん。こういうのが差別でしょう」と憤懣(ふんまん)をぶつけた。柯さんはじめ、
仲間の蒋松輝さん、藍昭光さんも差別されたときの悔しさを語っている。

 ただ、「母国は日本」とまで公言している人々が、日本統治時代に関して洗脳、差別、
恨みばかりを強調するだろうか。

 同じ疑問を感じた視聴者は多い。だが、NHKは「日本とアジアとの真の絆(きずな)、
未来へのヒントを見いだそうとしたものです」と無味乾燥な答えで押し切った。

 それならと、義憤に駆られた衛星放送の「日本文化チャンネル桜」はさっそく現地に飛
んで、番組に出演した柯さんらを交えて座談会を開いた。

 藍さんは「終戦で台湾人による統治ができると考えた。だが、中国人がきて衛生、治安
がでたらめになった。虐殺事件が起きて、戦前のよかった日本時代を思いだした」と語る。
日本統治の良い面とは、教育、病院、鉄道などのインフラに集約できるという。

 柯さんは「日本統治の善しあしは半分半分なんです。NHKには両方をいった。日本人
がいやがる部分はカットしていいよといったのに、逆に悪い面だけを放映した」という。
そして冒頭の「後ろに中共がいるんだろう」との怒りにつながる。

 制作者がシロをクロと言いくるめる番組をつくろうと思えば、取材対象の見解からクロ
ばかりを抽出すれば事足りる。そこには、善意ある台湾人の複雑微妙な心理は配慮されな
い。歴史事実を歪曲(わいきょく)してしまう古典的な手法である。

 昨年も、神社と戦争の結びつきを強調した映画に『靖国』があった。靖国神社のご神体
は鏡と剣であり、どちらが欠けても成り立たない。だが、中国人監督は半分の剣だけを摘
出して「武」のイメージを極大化した。90歳の刀匠が節目に登場するのはそれが理由だろ
う。刀匠から「事前説明とは違う」と抗議されると、監督は「政治の圧力か」とそらした。

 『アジアの一等国』であれ『靖国』であれ、「事実そのものを封ずる空気」はいやなも
のである。


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