今、なぜ台湾なのか  杉原 誠四郎(元城西大学教授)

今、なぜ台湾なのか  杉原 誠四郎(元城西大学教授)

 台湾の今置かれている状況と世界から寄せられている期待

◆21世紀に存在してはならない国家

 私は現在、2年前にできた歴史論戦研究所という研究所の会長を務めている。その発足に当って、「研究所の発足について」なる挨拶文を研究所のホームページに載せている。その挨拶文に次のように記したところがある。

<現在、この21世紀にあって、一党または一族による独占支配の国家があります。そのような国家は、党や一族の支配を存続させようとして、国内では過酷な人権弾圧をし、国外に向けては独占支配の価値を国民に訴えるため限りなく膨張拡大政策を取ります。そのため、国際秩序が限りなく乱されます。こうした一党、一族の独占支配する国家は21世紀にあっては、存在してはならない国家です。>

 21世紀の国家としては、人間の自由を尊び、権利を守り、法の支配に遵い、国民の自由意志に基づきながら政治を行うという民主主義政治を守り、報道の自由を保障し、歴史に必要とする情報を公開し、総じて透明度のあるところの民主主義国家でなければならない。

 しかるに中国共産党という一党支配の中国では、国民に自由を与えず、権利を保障せず、国民の自由意志に基づかず中国共産党一党支配の政治を行うことによって民主主義政治を守らず、報道の自由を保障せず、党の支配に支障をきたすかもしれない情報は永遠に開示する保証がなく、結局は透明度のない全体主義国家になっている。

 こうした全体主義国家では、自由主義国家と違って、自由主義国家では必要としない政治権力の行使が必要になってくる。国家を支配する党は、その支配の存続を図るために、国内にあっては国民の自由や権利を保障せず、国外に向かっては膨張政策を取ることになりやすい。また、そのようにして抑圧された国民はその鬱積を晴らすためもあって、国家の膨張政策を支持するようになる。このような全体主義国家は、その国家に属する国民にとっても望ましい国家ではなく、世界の人々にとっても望ましくない国家である。

◆中国文明の中の中国共産党

 ところで、中国が横暴で傍若無人なのは、共産主義に基づく中国共産党が独占支配する国家であるゆえか、それとも中国が、5000年の歴史を有する中国文明の下に存在する国家であるがゆえなのか。

 その答えは1989年の天安門事件を見ればよく分かる。中国を民主化しようという学生たちや若者たちのデモに対して、時の実力者、●小平は「譲歩すれば、中華人民共和国がなくなってしまう」と言って戦車を出動させ、学生や若者を殺した。

 ●小平は生涯3度失脚したと言われている。文化大革命の時には、下放され、寒さに震えながら、飢えに苦しみ、死線をさまよったと言われている。それほどの辛酸をなめながら、共産主義及び共産党支配の非人間性を学ばなかった。

 このような●小平に対比してみるべきは、ソ連共産党のゴルパチョフである。ゴルパチョフは1986年、アメリカの大統領レーガンと米ソ首脳会談を行った以降、「再建」を意味する「ペレストロイカ」を進め、「情報公開」を意味する「グラスノスチ」に踏み切った。そして憲法を改正し、複数政党制を認め、ついにソ連を民主主義国家に変えた。ゴルパチョフは自らの行動しだいではスターリンと同程度に強力な政治権力を掌握し、独裁者になることも可能であったと思われる。しかしゴルパチョフはその道を選択せず、ソ連を動かす最高の地位に就くと、共産主義、共産党の一党支配の非人間性に目を向け、そこからの脱却を図った。

 ●小平とゴルパチョフとの違いはどこにあるか。?小平は残虐極まる中国文明に生きた人物であるゆえに、共産党の非人間性は物の数ではなく、それゆえに、共産主義、共産党一党支配の非人間性を学ぶことができなかったのだ。(●=都の者が登)

◆中国文明とはどのような文明か

 ここで台湾出身の歴史家黄文雄氏の言うところによるが(1)、中国文明では、まず「国家」というものの考え方が欧米文明とは違うようだ。欧米文明でも1つの帝国のもと、いくつもの民族が他民族に支配されるということはあるが、原則として国家というものは1つの民族が1つの文化共同体として、1つの国土を持って、その上で、国家自治を行うという観念がある。

 しかし中国文明の下ではそうした国家の観念はなく、「天子」と「天下」の関係しかない。天子は人民の生する天下で、人民に対してあらゆることを無制限に支配する存在である。天子は力が強ければ強いだけ天子の支配する人民の数は増え、支配する天下は広がり、そして人民への支配の度合いも強くなる。

 また、支配の力の源泉はと言えば、結局は物理的な力としての武力であり、武力に基づく実力さえ蓄えれば誰でも天子になることができる。事実、中国で過去に巨大な王朝たる漢と明を開いた最初の皇帝はいずれも農民出身であった。

 とすると、武力による闘争は、天子になるか、天子になれず殺されるかの違いであるから、そのための戦いは文字どおり限界なく凄惨な殺し合いと化す。戦争は欧米文明の下でも頻繁に行われたが、それでも戦争の犠牲者が無駄に多くならないように、戦争に関する国際法を発展させ、戦争で無用に多くの人が死ななくてよいようにした。しかし中国での戦争では、勝って生き残るか、負けて死ぬかの戦争であり、人の殺し合いの数や凄惨さは欧米文明における戦争の場合の比ではありえない。まさに「人殺しの文明」なのである。

 そうした「天子」というものにあっては、天子はあらゆることを支配する存在であるから、自ら従わなければならない法というものはない。他と結んだ約束も、それは自分にとって、利益があるときにのみ守ればよいものであり、利益がなくなれば守らなくてよいものなのである。天子ならば、約束を平然と破っても非難さることはない。中国政府は、香港に対して、1997年にイギリス政府との間で交わした50年間は「一国二制度」のままでいくという約束をまだ27年を残して、この約束の文書は歴史上の文書にすぎないと宣して無視したのは、中国文明における天子の行為として解するのが正しい。

◆マニフェスト・デスティニーに支えられたポンペオ国務長官の演説

 去る7月23日、アメリカのポンペオ国務長官が、1972年に米中和解を実現させたニクソン大統領のゆかりの記念図書館で、対中政策について、歴史的演説を行った。

 中国武漢で発生した新型コロナウイルスの危機のなか、誰の目から見ても世界の諸国が迷惑を受け翻弄させられている状況で、中国は悪びれるどころか、これを好機とするかのように、さらなる覇権主義的政策を取り続けている。そんな中国に向けて、決別を宣するところの重要な演説であった。

 「共産党中国と自由政界の未来」と題する約25分間のこの演説は、21世紀前半における最も重要な演説の1つになるであろう。

 ポンペオ氏の演説では、敵対する相手を「共産党中国」としており、中国がマルクス・レーニン主義を取る共産党政権であるゆえに、そこに悪の根源があるとしていた。そのために、共産党が中国文明に完全に冒された党であり、それゆえにこそ、悪の根源になっているのだというところまでは見通していなかった。そこにポンペオ国務長官の演説には不十分なところがあるのであるが、中国共産党の行為は中国文明にすっかり冒されているゆえになしている行為であるから、中国共産党への批判は結果として中国文明への批判と同じということになり、結論は間違っていないということになる。

 念のため言っておかなければならないが、ポンペオ国長官の演説に対して、中国文明のところに問題の根源を見出すべきなのにそこまで至っていないと、いきなりポンペオ氏を難詰してはいけない。というのも対中国で、このような中国文明の問題に気づかなかったのは、ポンペオ国務長官だけではなく、20世紀、アメリカの全ての大統領が気づかなかったからだ。

 特に第2次世界大戦を率いたルーズベルトはひどく、中国と日本の紛争は一方的に日本が悪いと思い込み、そのため日本は、実質的にはルーズベルトによって最初の第1弾を撃つように仕掛けられたところの日米戦争を、アメリカとの間でしなければならなくなった。日本が、中国文明にどっぷり浸かった中国にどれほど翻弄されたかは、日中戦争をもう1度振り返って冷静に見つめれば分かることである。(2)

 ポンペオ氏はそこまでは思い至らず、今なお共産主義、共産党の問題として問題設定をしているわけであるが、しかし結局はその大本にある中国文明と対決しようとしているということになるのだから、結果的にはアメリカの歴代の大統領の過ちを是正しようとしたものになっている。

 アメリカには、マニフェスト・デスティニー(神から与えられた使命)として、古代のギリシャ、ローマから発展した人類の普遍的な文明をアメリカで開花させ、さらにそれを西に向けて広めていくという、言わばアメリカの歴史的使命とでも呼ぶべき建国の理念がある。ポンペオ氏は無意識のうちにも、このマニフェスト・デスティニーに目覚め、21世紀に存在してはならない中国文明と戦うことを決意しているのだと言える。まさに普遍的な欧米文明と、存在してはならない中国文明との衝突である。つまり、欧米文明が存在してはならない中国文明を撲滅しようとする戦いを始めようとしているのだと言える。

 ポンペオ氏は演説で言っている。「今行動しなければ、中国共産党は我々の自由を侵食し、法に基づく秩序を覆していく。屈服すれば、我々の子孫は、今日の世界で自由世界への最大の脅威である中国共産党の言いなりになってしまう」(『読売新聞』訳)」と。

◆台湾の人へのお願い

 さて、以上のような世界的状況の中で、中国と最も近しく、また日本統治下にもあったことがあり日本とも近しい台湾の人たちへ、日本国民の1人として、現実的にして具体的にお願いしたいことがある。

 昨今のコロナウイルス禍では、台湾政府は新型コロナウイルスが中国武漢で発生したと見たとき、中国政府の報道に惑わされることなく、先手を取り、早々と対策を打ち、コロナ対策では世界の優等生になった。

 それに何と言っても賞賛すべきは、台湾は中国国民党の一党支配の体制から、総統を台湾の人の直接選挙によって選ぶという、つまり国民党一党支配の全体主義国家から、国政の最高責任者たる総統を国民の選挙で選ぶという民主主義国家への転換を実現させたことだ。しかもそれは平和裏にである。

 蒋介石の後を継いだ蒋介石の息子蒋経国と22歳まで日本の統治下で日本人として生きた本省人の李登輝の2人の指導によって、1996年にはついに総統の直接選挙を実施するに至ったのである。まさに平和裏に国民党一党支配の全体主義国家から、国民の意思に基づいて政治を行う民主主義国家へ転換を図り、それを実現させということになり、中国文明を撲滅しようとする欧米文明の仕掛ける戦いの中で、台湾はまさにリーダーとなる資格を持ったことになる。

 全体主義国家中国を民主主義国家に転換させるための戦いに関わって、その資格を持った立場にある台湾に向けて、世界から大きな期待が寄せられている。世界から寄せられているその期待について、私は1人の日本人として、私なりに整理して6点、具体的にして現実的な、さらには必要不可欠とも言える施策を提言しておきたい。その6点は相互に密接に関係し合っているのであるが、あえて言えば、2つは台湾に特に関すること、2つは国際社会に関すること、2つは日本に特に関することであるとも言える。

(1) まずは台湾の安全保障をしっかりしたものにしていただきたい。そのためには、アメリカと安全保障条約を 締結し、しかもその中身としては、アメリカ軍基地を台湾本土の中に直接置いてもらうことであり、台湾の安全 を文字どおり完璧なものにしていただきたいことだ。それが世界がまず期待し、望むことだ。

(2) 台湾は国際法上「準国家」であるとして、「準国家」の名の下に事実上、独立国と同等の主権を保持してい ると、そのことを認めるよう、世界の諸国に要請していただきたい。台湾のこれまでの事実上の国家として成 立するにあって国民党一党支配の時代があり、その建国の過程に鑑み、さしあたって「一つの中国」論はやむを えないと言えよう。しかしそのための話し合いは大陸中国が完全に民主主義国家になってからと明確に宣言して いただきたい。コロナ禍で世界の諸国が中国に対して憤っている現在、台湾のこのような「準国家」の要請は世 界の諸国によって容易に受け入れられると思われる。

(3) 国際連合の改革はたいへん難しい問題だと一般的に考えられているが、ポンペオ国務長官は先の演説で「今 こそ、新しい民主主義国の同盟を結成する時だ」と言った。つまり民主主義国だけ加盟できる新しい国際連合を 新たに結成して、そしてそれに合わせて今の国連を脱退すれば、世界の主要国の多くは新しい国連に移ることに なるであろう。そうすれば結果的にはいわゆる「国連改革」は極めて容易に実現できることになる。台湾の人に はそのための最初の呼びかけをして欲しいのだ。

(4) そして中国が全体主義国家から民主主義国家に転換するまで、あたかも地球上に中国は存在していないかの ように、中国とは政治的にも、経済的にも、文化的にも、交際を断つよう、世界の人たちに、声を大にして呼び かけて欲しいことだ。これは中国国民を敵視しているのではない。真には中国国民を解放するためのものだとい うことを、中国国民に誤解されないようによく広報しながら、世界の人たちに力強く断固として呼び掛けて欲し いのだ。

(5) 次に、特に日本に関係するお願いであるが、人類の進歩として、その新しい国際連合では21世紀の国家の在 り方として、世界の全ての国は、特定国に対して敵意を育む対特定国敵対教育を禁止するというようにしていた だきたい。日本から言えば、中国や韓国の反日教育がしてはならない教育ということになり、21世紀の国家とし ては当然の在り方である。

(6) 最後にこれも日本に関係するが、先日7月30日亡くなった李登輝元総統は尖閣諸島は日本の領土だと公言され ていたようである。だとすれば、台湾政府としても尖閣諸島は日本の領土だという日本の主張を認め、中国政府 に向けて領海侵犯を止めるよう諫めていただきたい。そして同時に、日本政府に向けて尖閣諸島周辺の防衛強化 を進言していただきたいのだ。

 以上、6つの現実的にして具体的な、なおかつ必要不可欠とも思われ、世界から期待されていると思われる施策について述べてきた。

 台湾はかつて日本統治下にあり、22歳まで日本人として育った李登輝元総統は、かつては日本人の生き方として確かに存在していた「武士道」を高く評価し、日本国民にたえず、「武士道」を思い起こすよう、言葉を投げかけられてきた。台湾には、日本文化が残っており、そのことも踏まえて、全体主義国家中国との戦いで、台湾が世界のリーダーとなり、果敢に戦ってくれることに、日本人として誇らしく思わざるをえない。そして世界の人々とともに台湾に熱い期待を寄せていかなければならないと思っている。

註1:黄文雄『黄文雄の「歴史とは何か」−<日・中・台・韓>の歴史の差異を巨視的にとらえる』(自由社、20   17年)は、日・中・台・韓の歴史の巨視的違いを明らかにしている。

註2:茂木弘道『戦争を仕掛けた中国になぜ謝らなければならないのだ! ─ 日中戦争は中国が起こした』(自由   社、2015年)は日中戦争が中國から仕掛けられたものであることを明らかにしている。

● Why Taiwan now ── the situation of Taiwan today and globalexpectations toward Taiwan By Sugihara Seishiro  http://www.sdh-fact.com/CL/Taiwan2020_e.pdf

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杉原誠四郎(すぎはら・せいしろう)昭和21年(1941年)、広島県生まれ。1965年、東京大学教育学部卒、1967年、同大学院教育学研究科修士課程修了。城西大学助教授、教授、武蔵野女子大学(校名変更で武蔵野大学)教授、帝京平成大学教授などを歴任。2011年9月から2015年10月まで新しい歴史教科書をつくる会の会長を務め、現在は顧問。2019年11月より国際歴史論戦研究所会長。

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