【対談】李登輝前総統・安藤忠雄氏─日台の未来 地球の未来(2)

【対談】李登輝前総統・安藤忠雄氏─日台の未来 地球の未来(2)
読売新聞による李登輝前総統へのインタビューが掲載された4月4日、産経新聞が李前
総統と建築家の安藤忠雄氏との大型対談を2ページの見開きで掲載しています。

 李前総統は安藤忠雄氏とは初対面だったそうですが、講演や論考の中で安藤氏の仕事
ぶりに言及し、また、安藤氏は台湾では最も関心の高い建築家であり、司馬遼太郎記念
館や西田幾多郎の哲学館(石川県かほく市)などの設計を通じて、間接的に李前総統の
考えをよく理解していたようです。

 世界的な政治家と建築家、住む世界は異なるにもかかわらず、その世界観や価値観が
一致しているのは不思議な感じもしましたが、対談では「場所の論理」がキーワードと
なっていて、得心するところがあります。

 4つに分けている対談ですので、4回に分けてご紹介します。本日はその2回目をお届
けします。                             (編集部)


【対談】李登輝前総統・安藤忠雄氏─日台の未来 地球の未来(2)
【4月4日 産経新聞】

 総統選挙によって8年ぶりに政権が交代する台湾。この政権交代の制度を打ち立てた
前総統の李登輝氏と、日本を代表する建築家の安藤忠雄氏が台北郊外にある李氏の私邸
で対談を行った。二人は初対面だったが、作家の故司馬遼太郎氏にかかわる思い出話か
ら打ち解けた。話題は日本や台湾にとどまらず、情報化社会の進展、地球環境など人類
全体が直面する問題に及んだ。          (司会 長谷川周人台北支局長)

■ 2 教育 人を愛すること 哲学的に物事を考えること

安藤氏
 司馬遼太郎記念館を設計したとき、世界中を歩いた司馬さんが小説執筆に向けて集め
たという膨大な量の本を壁面一面に展示することで、物事を考えて生きてきた軌跡を感
じるものをつくりたいと考えました。15年ほど前に司馬遼太郎記念室がある姫路文学
館(兵庫県姫路市)を設計したことが縁で、司馬さんの記念館の設計者に指名されまし
た。
 姫路文学館は哲学者の和辻哲郎など姫路地方に縁の深い文学者を紹介した博物館です
が、李さんが学生時代に親しまれたという西田幾多郎の哲学館(石川県かほく市)も設
計を担当する機会をいただきました。

李氏
 2005年の暮れ、その哲学館に行きましたよ。西田の「善の研究」は旧制台北高校時代
から何度も読み返した本で、西田哲学は今も私の精神の根幹を成しているのです。哲学
館では自分の学生時代を懐かしみながら、当時の自分と現在の台湾を重ね合わせ、胸が
熱くなりました。

安藤氏
 設計者としてうれしく思います。設計に入るとき、若いころに読んだ西田と和辻をも
う一度読み直し、二人を理解しようと努めることから始めました。よく相手を知り、理
解する必要があるからです。
 その時に考えたのですが、西田と和辻はアプローチの仕方は違うものの、彼らが到達
しようとしたのは、「場所の論理」ではなかったか。書斎にこもって自らの内面と向か
い合う西田。対する和辻は逆に意識が外に向かい、旅することで何かを発見し、真理を
得ようとした…。

李氏
 その通りですよ。そこに教育という問題が出てくる。教育には、建築をやったりする
専門教育と、教養の二つがある。哲学も歴史も芸術も科学も、基礎教養として専門以外
にある程度知っておく必要が人間としてあります。プラス、国を愛し、人民を愛するこ
と。昔の日本教育はこうだった。私は22歳まで日本籍ですよ。その日本教育を受けたか
ら、今も私なりの考えが出てくるんだ。
 日本全国、そして世界を渡り歩き、歴史的な小説を書こうとした司馬さんも、行き着
くところは「場所の論理」なんだな。人が集まれば場所ができる。これが大きくなると
国になる。つまり、若いときに教養を教え込まれてこそ、歴史を土台に哲学的に物事を
考えることができるのです。民主とは何か、人はなぜ人を愛せるのか、という問題を理
解してこそ、新しい将来へと突破することもできる。ところがね、人々が技術ばかりに
目を奪われる今の社会は、どうもへんてこになってきた。そうは思いませんか。

安藤氏
 同感ですね。経済至上主義が世界を画一化し、その弊害が叫ばれていますが、彼ら
(西田、和辻)の哲学には先見性があった。先人が卓越した哲学を残してくれたにもか
かわらず、日本人は1960年代以降の高度経済成長の中で、経済の論理を重んじるあまり、
何かを失い、随分と変わってしまった。そう、今や西田も和辻も、見向きもしませんよ
(笑い)。
 だから、技術の発展が世界で同時進行する中、よほど確立した自己を持っていないと、
精神構造がバラバラになってしまう。ところが、人々の実生活には確立した自己を持つ
ような時間がなく、瞬間的な情報を山のように抱え込むばかり。つまり心のよりどころ
を見失い、世界中の人たちの精神がバラバラになっている、と案じます。                                           (続く)


李登輝氏 1923年、台北県生まれ。43年、京都帝国大学農学部入学後に学徒出陣。戦後
は帰台して台湾大学に編入。68年、米コーネル大学で農業経済学の博士号を取得。中国
国民党に入党後、台北市長、副総統などを歴任、88年、蒋経国総統の死去に伴い総統に
昇格。96年、台湾初の総統直接選挙で圧勝。2000年、国民党主席辞任後、党籍を剥奪さ
れ、独自の政治活動を繰り広げている。

安藤忠雄氏 1941年、大阪生まれ。69年、安藤忠雄建築研究所を設立。79年、日本建築
学会賞、96年、高松宮殿下記念世界文化賞を受賞。91年にはニューヨーク近代美術館で
日本人初の個展を開催。97年、東京大学教授、2003年から名誉教授。同年、文化功労者。
代表作に「住吉の長屋」(大阪市)「六甲の集合住宅」(神戸市)「光の教会」(大阪
府茨木市)など。

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