台湾の声編集部 多田恵
2023年3月2日
メールマガジン『台湾の声』も日々敵からの攻撃を受けている。最近では、2月22日午後8時21分から僅か1時間の間に、taiwannokoe.blogspot.comというサイトに保存してあった台湾の声バックナンバーのうち約1500件についてサービス運営会社blogger.comより「審査の必要があるとの報告を受け」「投稿を閲覧しようとした読者に警告メッセージが表示されるようにいたしました」という通知を受けた(2007年から2008年に配信された記事)。1500件もの記事についてサービス運営会社に審査すべきだと報告が行ったわけである。もし手作業だとすれば気が遠くなる手間である。
3月1日には、同じ内容の記事が3回配信された。実はサーバーにトラブルがあり、記事の配信がうまくいかなかったためである。2・28事件を記念するこの時期に何者かによる妨害があるのは『台湾の声』にとって珍しいことではない。
さて、日本経済新聞では2月28日から「迫真」というコーナーで「台湾、知られざる素顔」という連載を行っている。初日には大きなサイズの文字で「それでも中国が好きだ」という見出しをつけている。
このシリーズは、日本社会の台湾に対する印象を操作し、日本社会をして台湾との協力を躊躇わせようとするものにほかならない。
「それでも中国が好きだ」という見出しは、「台湾軍で幹部を務め」、退役後、「中国で商売を得」、「台湾軍の情報を中国側に提供」していたが、情報が尽き(中国で経営していた)レストランが「当局の嫌がらせで閉鎖に追い込まれた」という仮名の人物の言葉として引用された言葉だ。この人物は「軍幹部OBのお決まりのルート」に乗ったとされているが、これも匿名の情報源(「軍関係者」)による評価である。
「軍幹部の9割ほどは退役後、中国に渡る。軍の情報提供を見返りに金稼ぎし、腐敗が常態化している」(関係者)という記述も情報源が秘匿されている。
蔡英文総統について、“この1年間で30回近く軍の現場に足を運んだ。寄り添う姿勢をアピールしたが「軍は終始、中国に強硬な蔡の改革案に抵抗し続けた」(専門家)。蔡は軍を掌握できていない”としているが、根拠を示さず匿名の人物に語らせるという手法に終始している。
また「かつて台湾軍は国民党軍として中国で日本と戦った」とし、“「日本と距離を置くあの台湾軍が、いまさら日本と領土防衛で本当に協力できるのか」(軍事専門家)”としている。匿名の人物の発言の引用には辟易であるが、それをおいても、国民党軍が共産党軍と戦ったという事実や、旧日本軍将校を中心とする軍事顧問団の指導を受けたという点には言及がなく、読者に偏った印象を与えるものになっている。
2日目の記事は、“根深い対立は人々の誇りをも希薄化させる。台湾・政治大学の意識調査で自らが「台湾人」とする人の割合は20年をピークに下がり続け、昨年末6割にまで落ち込んだ”としている。
この政治大学の調査は有名なものであるが、それについてよく知らない人がこの記事を読むと、「昨年末4割が中国人意識を持っているというデータがあるのか」と誤解してしまうだろう。
実は、この調査は、「台湾人である」「台湾人でもあり中国人でもある」「中国人である」「無回答」に分けて統計がとられており、そのうち「台湾人である」が2020年に64.3%だったものが2022年に60.8%になったという話にすぎない。「中国人である」は2020年に2.6%、2022年に2.7%と、極めて少なく、ほぼ横ばいである。「台湾人である」が減った分は、主に「台湾人でもあり中国人でもある」が増やしているのである(2020年29.9%、2022年32.9%)。
3日目の見出しは「政治の理想で飯は食えない」。これも「台湾大手首脳」であるという、匿名の情報源の言葉として引用されたものだ。また本文中に同じ情報源から「中国から経済で自立する力は、もはや今の台湾には残っていない」という言葉を引用している。
この連載を3日分読んで言えることは、この記事は台湾における中華民国体制の存在を無視しているために、台湾の真実を浮き彫りにできていない。
それが端的に表れているのが、初日の記事である。
蔡英文総統の言葉を「私は今日、台湾軍がいかに優れているかを台湾の人にも見せたく、ここに来ました。台湾のみなさん、安心ください」と引用しているが、その原文は総統府によれば「今天我來到這裡就是要讓國人看見中華民國國軍的精實表現,請國人同胞安心」である。つまり「私は今日、中華民国国軍がいかに優れているかを国民にも見せたく、ここに来ました。国民のみなさん、安心ください」ということになる。一回も「台湾」とは言っていないのだ。
日経はなぜ、原文通りに「中華民国国軍」「国民」としないのか?それはまさに中国が嫌がることだからではないか。
記事中、“国民党軍は結局、台湾を守る「台湾軍」として衣替えを余儀なくされた”としているが、そもそも中華民国体制下において「台湾軍」などとは呼ばれていないのである。
台湾には「中華民国」という魔法の言葉がある。様々な人がさまざまな意味でこの言葉を使っている。「中華民国」は確かに中国のかつての国名だ。
初日の記事の見出しの中の「中国」は台湾に侵略しようとしている中華人民共和国という共産党主導の国家を指すのか?それとも「外省人」の思い出の中にある理想的な祖国を指すのか?もし前者の意味で、自身が経営するレストランを「当局の嫌がらせで閉鎖に追い込まれた」仮名の人物が「それでも中国が好きだ」というのであれば、変態であろう。見出しに取り上げる価値はない。もしそのような人物が存在してそのような言葉を語ったとしたら、その「中国」は中華人民共和国を指すものではないはずだ。
それは台湾人のアイデンティティー調査における「中国人」の定義にもかかわってくる。その「中国人」というのは中華人民共和国の国民という意味ではない。台湾人は辛亥革命を祝う中華民国体制下で中国人であると教え込まれてきた。せいぜい、そのような意味での中国人なのである。
台湾の事情を無視して偏った見方を押し付ける記事ではあるから、正しく訳しているか信用ならないが、真実を伝えているとみられる部分もある。「でもあんな中国と一緒になるのは怖いし、絶対に嫌だ」。中国と一緒になるのが絶対に嫌な人々が中国の侵攻を受けたとき、戦うしかないのではないか。
新北市警察の海山分局のホームページに2019年8月27日付で「フェイクニュースを見分ける方法」が掲載されている。
(1)記事のタイトルに対して懐疑的な態度を保つ
(2)ニュースソースを調べる
(3)関連報道を調べる
(4)信じられるニュースだけをシェアする
(5)フェイクニュースを検証するチャンネルを利用する
日経の連載は、ニュースソースが検証不可能で、それに基づいてセンセーショナルな見出しがつけられており、フェイクニュースの性質を持っている。日経新聞は、新聞というメディアの信頼を失墜させて中国を代弁し、日本社会に誤ったイメージを植え付けようとした。健全な社会は、このような新聞社をボイコットすべきである。
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