バイデン大統領は9月18日に放映された米CBSテレビのインタビューで、中国が台湾に侵攻した際に米軍は台湾を守るかと問われ「そのとおりだ」と答えたが、同時に「台湾は独立に関して自ら判断する。われわれは独立を促してはいない。それは彼らの判断だ」とも述べていた。
やはり、この発言は気にかかる。台湾の独立は、中国が判断するのではなく、台湾自らの判断によるという解釈に立てば、台湾はすでに独立した統治の実態を備えているのだから、そこに中国が介入する余地はないと述べたとも考えられる。
米国でも、中国が侵攻すれば米軍が台湾を守るという旨の発言より、「台湾は独立に関して自ら判断する」との発言に識者の関心が集まったようだ。
ロイターは「それよりもずっと重大なのは、米国の政策を台湾独立支持の方向に転換させることをバイデン氏が示唆したとも解釈されることだった」と報じ、この発言をめぐっての識者の見解を伝えている。
ただ、どうも議論は入口で止まっているようで、米国内に混乱をもたらしたという印象が強い。
バイデン大統領の「台湾は独立に関して自ら判断する」との発言ですぐ思い出したのは、ロシアが今年3月7日に台湾を米国、英国、日本、欧州連合(EU)加盟国などとともに「非友好国・地域」のリストに入れた際の注釈だ。そこには下記のように書かれていた。
「中国の領土と見なされているが、1949年から独自の政府による統治が行われている」
ロシアは、中国が主張する「『一つの中国』原則」を否定する形で台湾と中国を区別し、台湾には独自の統治実態があると公表した。不思議なことに、戦狼外交に徹している中国はロシアに異を唱えなかった。
ロシアが台湾には独自の統治実態があると認識しているなら、米国にも当然その認識があると考えるのが自然だし、バイデン大統領にもロシアと同じ台湾認識があったとてなんら不思議ではない。
むしろ、台湾は「中国の領土と見なされているが、1949年から独自の政府による統治が行われている」と考えているバイデン大統領だから、「独立に関して自ら判断する」と発言したと考えられる。すでに独立した統治の実態を備えている台湾だから「独立に関して自ら判断する」ことができる、と述べたのではないだろうか。
その意味で、ロイターが「米国の政策を台湾独立支持の方向に転換させることをバイデン氏が示唆したとも解釈される」との指摘は正鵠を射ているのかもしれない。
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焦点:バイデン氏の台湾防衛発言、「独立支持」への転換示唆か【ロイター:2022年9月20日】https://jp.reuters.com/article/taiwan-biden-us-idJPKBN2QL0A1
[ワシントン 19日 ロイター] バイデン米大統領が18日の米CBSテレビでのインタビューで、台湾問題を巡って、再び踏み込んだ発言を行った。ニュースのヘッドラインには、中国が侵攻すれば米軍が台湾を守る、との文字が躍った。
しかし、それよりもずっと重大なのは、米国の政策を台湾独立支持の方向に転換させることをバイデン氏が示唆したとも解釈されることだった。
ホワイトハウスはバイデン氏の発言後、米国の政策に変更はないと必死に説明している。だが、何人かの専門家は、意図的かどうかはともかくとして、バイデン氏によって、台湾の独立にはコミットしないという従来の米国の姿勢は損なわれたのではないか、との見方を示した。
中国の習近平国家主席はずっと前から台湾を支配下に置くと表明し、そのために軍事力行使を辞さない構えを示してきた。台湾政府は中国側の「自国領土の一部」という主張に強く反発しつつ、既に事実上の独立国家である以上、改めて独立宣言をする必要はないとのメッセージを発している。
ブリンケン国務長官、オースティン国防長官ら米政府高官も今年、米国は台湾独立を支持しないとの立場を強調。これは過去数十年間にわたり、中国政府に「挑発によらざる攻撃」を思いとどまらせながら、台湾に正式な独立を宣言しないよう納得させるため、細心の注意を払って続けてきた米国の外交的努力、ワシントン流の言い方なら「二重の抑止」政策の一環だった。
ところが、バイデン氏はCBSテレビ番組「60ミニッツ」で「独立に関しては台湾自らが判断を下す。われわれ米国として台湾独立を促してはいない。それは彼らの決定事項だ」と語った。
<矛盾する姿勢>
バイデン氏に批判的な人々は、バイデン氏が台湾の独立宣言を暗黙で支持したと、中国政府に受け止められると主張する。中国は既に米国が台湾防衛に動くと想定している公算が大きい以上、わざわざ守ると明言する効果より、中国側の敵意を増幅させるデメリットの方が大きいとも指摘した。
シンクタンクのファウンデーション・フォー・ディフェンス・オブ・デモクラシーズの中国専門家、クレイグ・シングルトン氏は「米国の台湾政策は変わらないと言いながら、米軍の台湾防衛を約束し、台湾に独立決定権があると認めるのは矛盾している」と述べ、バイデン氏は台湾自らが独立するかどうか決められると示唆した、と中国が懸念する公算が大きいと付け加えた。
ベン・サス上院議員ら一部の共和党議員は、バイデン氏の発言を称賛するとともに、ホワイトハウスが姿勢を後退させたと非難。一方、米国家安全保障会議(NSC)の報道官は「大統領は米国の『長らく維持してきた1つの中国政策』を直接肯定している」と言い張った。
<求められる説明責任>
台湾外交部はバイデン氏の発言に対して、確固とした支持を示してくれたことへの「心からの感謝」を表明した。
在米中国大使館の報道官は、米国は台湾の独立派勢力に誤ったシグナルを送り、台湾海峡の平和と中米関係を危険にさらしてはならないとくぎを刺した。
シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)の中国専門家、ジュード・ブランチェット氏は、バイデン氏の発言は米国の政策を明瞭化するより、むしろ混乱をもたらしたと話す。
その上で同氏は「正確な言葉づかいが最も大事になる問題の1つは、台湾政策を巡る話だ。台湾が独立を宣言しても米国が台湾を守るという方向にわれわれの外交政策が根本的に変わるのだとすれば、それは単に60ミニッツのインタビューで知らせるより、もっとしっかりした議論がふさわしいテーマになる」と主張した。
(Michael Martina記者、David Brunnstrom記者)
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