【読売新聞「社説」:2022年8月10日】
中国軍が台湾侵攻を想定した演習を継続し、常態化する構えをみせている。台湾への圧力を強化する狙いは明白だ。中国は危険な挑発を即刻中止すべきである。
中国軍の台湾周辺での大規模演習は、予告された期間が過ぎた8日以降も続けられた。
中国は4〜7日の演習についてペロシ米下院議長訪台への対抗措置だと説明してきたが、口実にすぎないことが改めて示された。
演習は、台湾を取り囲む形で対象区域が設定され、弾道ミサイルの発射や、海空部隊の統合訓練、陸上攻撃訓練などが日替わりで計画的に行われた。中国軍の訓練では史上最大規模とされている。
これらの演習計画が、長期間にわたって周到に準備されてきたのは明らかだ。中国は実行に移す機会をうかがっていたのだろう。
そもそも、台湾への軍事的圧力を強め、緊張を高めたのは中国だ。ペロシ氏の訪台が事態悪化を招いたという主張は筋が通らない。
今回の特徴は、中国軍の戦闘機や艦艇が、中台の停戦ラインとして機能してきた台湾海峡の中間線を何度も越えて演習を行ったことだ。中間線に法的根拠はないが、中国側はこれまでは過度の緊張につながる越境を控えていた。
中国はもはや、中間線を存在しないものとみなし、中間線越えでの演習を常態化して、台湾侵攻能力を向上させようとしている。一方的な現状変更は許されない。
中国は米国への敵対姿勢も強めている。米中の軍当局間対話の中止を通告し、両国が協力できる数少ない分野である気候変動の協議も先送りした。
大国として極めて無責任な態度だ。中国自身が、対米批判の常套(じょうとう)句とする「危険な火遊び」に興じていると言わざるを得ない。
米軍は数週間以内に艦艇を台湾海峡に派遣するという。中国の台湾海峡での身勝手な行動を認めず、航行の自由を守る姿勢をアピールしてもらいたい。
中国の一連の行動によって、台湾有事が日本の有事であることが実証された。中国が台湾を海上封鎖すれば、南シナ海と日本を結ぶ海上交通路も妨げられることになる。エネルギーや食料を輸入に頼る日本にとっては死活問題だ。
中国が台湾に侵攻した場合、安全保障関連法の定める「存立危機事態」に認定され、日本と米国が限定的な集団的自衛権を行使できる対象になるのか。政府はあらゆる事態を想定し、防衛強化の議論を加速させねばならない。
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