李登輝元総統が1999年6月に日本語で出版された『台湾の主張』は名著と言って過言ではないと思います。亡くなられた直後に読み直してみたのですが、20年前に書かれたとは思えない内容の新鮮さに驚かされました。
やはり、その中国分析の深さには改めて蒙を啓かれました。この冷静冷徹な分析があるからこそ、20年前であっても、香港が今のような状態に陥ることを的確に見抜いており、米国歴代政権が取り続けてきた「中国が経済的に発展すれば民主化が促進され、国際社会の一員として責任ある振る舞いをする」という楽観的な中国観に対して「それは可能だろうか」と深い疑問を呈していました。
その点で、本書は20年を経たからこそ「予言の書」という新たな面も出てきたのではないかと思います。
2月3日付けで、同じ版元のPHP研究所から文庫の新装版として出版されました。
本書と同じく名著の誉れ高い『「武士道」解題─ノーブレス・オブリージュとは』は、単行本から3年後の2006年に文庫となっていますから、『台湾の主張』の文庫化も待ち望まれていました。
本書では、李元総統秘書の早川友久氏が「いまこそ日本人が読むべき必読書」と題して序文を書き、 李登輝元総統ご自身から聞いたという秘話とも言うべき出版に至るエピソードを書いていて、この本の出版に懸けた現役の総統だった李登輝氏の真剣さがよく伝わってきます。
解説は、昨年10月に『愛する日本人へ 日本と台湾の梯となった巨人の遺言』を出版しているノンフィクション作家の門田隆将氏が「『哲人政治家』が日本人に遺した未来への希望の書」と題して書いています。推薦は櫻井よしこさんです。
早川氏が指摘する、本書の「今日の日本が直面する課題をかくも的確に予言」や、門田氏が指摘する「李氏が私たち日本人に遺してくれた未来への提言」を日本人としてしっかり認識して日本の糧となし、李氏の期待に応えたいものです。
下記に早川氏がFacebookにつづった本書の紹介文を掲載します。
なお、1999年の単行本「まえがき」には「本書を完成するにあたっては、PHP総合研究所副社長の江口克彦氏をはじめ、実に数多くの」というお礼の言葉が記されていますが、2021年の文庫版では「本書を完成するにあたっては、PHP研究所をはじめ、実に数多くの」と改められています。著作権継承者の意向なのかもしれませんが、いささか不思議なことなので付言します。
・書 名:台湾の主張[新版]・著 者:李登輝・体 裁:文庫、本文288ページ・版 元:PHP研究所・発 売:2021年2月3日・定 価:946円(税込み) https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-90113-8
—————————————————————————————–いまこそ日本人が読むべき必読書【早川友久氏Facebook:2021年2月6日】
1999年にPHPから出版された李登輝総統の著作『台湾の主張』が、20年以上のときを経て新装文庫版となって甦りました。
当時、まず日本で出版された本書は、史上初めて5大紙すべてに書評が掲載されベストセラーになりました。また台湾で繁体字中国語版が出版されたのはもちろん、英語や韓国語、モンゴル語にまで翻訳され世界に台湾の民主化を知らしめたのです。
今般、大変光栄なことに新装文庫版の「序文」を書くという大役を仰せつかりました。そのなかで私は次のように書いています。
「この文庫化の意義は、前年に逝去した李登輝を悼むメモリアルだけではない、と私は考える。李登輝は、日本も台湾も同じくらい心から愛した。同時に、日本に心から期待を寄せていた。そんな李登輝が、やむにやまれず警世の書として日本人に贈った本書であるから、その言葉のひとつひとつが新鮮な輝きを持って、私たちに問いかけるのである」
内容は20年以上前に書かれたとは思えないほど新鮮で、まったく色褪せていることはありません。むしろ、今日の日本が直面する課題をかくも的確に予言し、指摘した李登輝総統の慧眼には敬服するばかりです。お読みになったことがある方も、ぜひ改めてもう一度お手にとっていただきたいと思います。
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