台湾の馬英九政権が2013年6月に中国と結んだ「サービス貿易協定」の撤回を求め、学生たちが2014年3月18日に立法院(国会に相当)の議場を占拠して4月10日に退去するまでの24日間にわたった活動は「太陽花学運(ひまわり学生運動)と呼ばれ、台湾の民主化に大きな影響を与えた。
馬英九政権内部からも高い評価を受け、龍應台・文化部長(当時)は思想面の脆弱性を指摘しつつも「若者たちの組織力、職務分担、国内外への広報アピール、イメージ戦略にいたるまで『ただただ感心するばかり』『学生らの行動力は百点満点。愛すべき若者たちだ』」と絶賛の声が挙がった。
故李登輝元総統も当時、「国家の指導者たるもの、学生の意見に耳を傾けるべきで、警察力を使って彼らを排除するべきではない。学生たちが殴られている光景を見るのは耐えられない」と学生たちを支持し、著書では「学生たちが台湾に対して見せた情熱や理想の追求は明るい希望をもたらしてくれました」「この学生運動はすでに台湾の民主主義の将来と発展に多大なる影響を与えたものと私は確信しています」(『李登輝より日本へ 贈る言葉』2014年)と書いている。
事実、この運動は台湾人としてのアイデンティティを助長し、国立政治大学選挙研究センターが発表した2014年6月の世論調査では「私は台湾人」は60.6%と、前年より3.5ポイント上回り、1992年以来、初めて60%を超えた。台湾民主主義のターニングポイントを為し、香港の民主化運動にも多大な影響を与えた。
この「ひまわり学生運動」には中国からの留学生も加わっていて、中国・湖州出身のこの女子留学生が民主主義や学生運動に目覚めていく過程や心の葛藤を描き、立法院議場突入をリードした陳為廷氏らが香港の学生たちと情報交換する過程なども描いた台湾のドキュメンタリー映画が「私たちの青春、台湾」(原題:我們的青春,在台灣 2017年)だ。10月31日、東京・東中野の「ポレポレ東中野」公開される。下記に産経新聞の記事をご紹介したい。
◆オフィシャルサイト:ドキュメンタリー映画「私たちの青春、台湾」: http://ouryouthintw.com/
—————————————————————————————–台湾の学生運動、記録映画が日本で公開へ 中国人留学生の受けた衝撃【産経新聞:2020年9月26日】https://www.sankei.com/article/20200926-VNJJOSIXO5PUTMCAMS62SHKOEM/
2014年3月に馬英九政権(当時)の対中接近策に危機感を募らせた台湾の学生らが、立法院(国会に相当)に突入し、議場を占拠した「ヒマワリ学生運動」を中国籍の女子留学生の目を通して描いたドキュメンタリー映画「私たちの青春、台湾」が近く日本で公開される。「ヒマワリ学生運動」は香港の民主化活動にも影響を与えており、監督の傅楡(ふゆ)氏(38)は「台湾や香港が中国からいかに強い抑圧を受けているか、学生がいかに必死に戦っているか、日本の人々にも危機を感じ取ってほしい」と話している。
映画では、中国の浙江省から台湾に留学していた女子大学生、蔡博芸氏(28)が、民主主義や学生運動に目覚めていく過程や心の葛藤が描かれる。
民主社会を見たことのなかった蔡氏は、台湾で同世代の学生が権力に立ち向かっていく姿に衝撃を受け、ヒマワリ学生運動にも加わった。中国に暮らす両親からは、「絶対に政治にかかわるな」と毎日のように電話がかかってきたが、「自分が信じる道を行く」と押し切った。
一方、蔡氏は留学先の大学自治会選に立候補したものの、中国籍を理由に排除され、民主社会への失望や挫折も味わっていく。
しかし「短期的に劇的な変化を起こすのは無理だと分かった。これからも人の話を聞き、文章を書いて自分なりの課題に取り組む」と決意。現在も台湾で暮らし、中国当局に削除されないよう注意しつつ、インターネットで台湾社会の様子を中国の若者に伝える努力を続けている。フォロワー数は10万人以上。言論でじわじわと意識変革を迫る手法を選んだ。
台湾で18年の最優秀ドキュメンタリー映画賞を受賞したこの作品は、6年前の議場突入をリードした台湾人の男子大学生、陳為廷氏(29)らが、香港の学生らと“地下水脈”を作って情報交換する過程も映し出す。香港の著名な民主活動家、黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏(23)や周庭(アグネス・チョウ)氏(23)らはヒマワリ学生運動から強い影響を受け、14年9月に香港で街頭占拠デモに踏み出す。選挙制度の民主化を求めた「雨傘運動」だ。しかし、中国共産党は抑圧を強め、今年6月には「香港国家安全維持法」が施行された。
香港の自由が奪われつつある今だからこそ、傅氏は「一人でも多くの人に見てもらいたい」と語る。東京都中野区のポレポレ東中野などで10月31日から上映される。(河崎真澄)
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■ヒマワリ学生運動 中国との貿易自由化をめぐる台湾立法院の審議に反発した学生らが、2014年3月から4月にかけ議場を約3週間占拠した抗議活動。市民にも支持が広がり、総統府周辺で50万人(主催者発表)を超えるデモに発展した。当時の国民党政権が折れて審議は中断され、学生らは占拠を解いた。
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