◆はじめに
今回の台湾通信は「文化比較」と題しましたが、ある方から台湾の「便當」と日本の「弁当」の違いについて尋ねられたのがきっかけです。
いいかげんなお答えをしてはいけないと思い、ネットで色々調べ始めましたら、スペインのある研究者の「弁当と日本文化」と称する日本文A4版40頁の論文を発見しました。また、ある方がお送りくださる「上海からのレポート」なる資料に「中国の駅弁事情」(A4版17頁)が載っておりました。さらに、「TAIWAN TODAY」、「ウィキペディア」などを参考にさせていただきながら(実はコピペ)、中国・台湾・日本の弁当を比較してみたいと思います。
◆中国の駅弁
「上海からのレポート」は上海のマスコミが伝える記事をテーマごとに取りまとめたものだそうで、「弁当」をテーマにしたレポートには中国の高速鉄道で販売されている「駅弁」についていろいろ紹介しています。
北京京鉄列車服務有限公司は高速鉄道列車・快速列車・快速寝台列車などの運営業務を請け負っており、駅弁を製造販売しているが、春節前後の特別輸送体制においては、1日当たり20,000食の駅弁を生産供給していると言います。価格は、10元・15元・30元・45元・65元・99元/セットの6つの価格帯、メニューは18種類あるとのことです。
1元は日本円換算約17.4円として、一番安いもので170円、メニューは香素包(しいたけ野菜まん)・芽菜醤肉包(豆苗豚肉まん)、一番高いもので1700円、メニューは黒椒牛仔骨(牛スペアリブ黒胡椒炒め)定食、最も人気が高いものは45元セット(780円)の梅菜扣肉(からし菜と豚バラ肉の煮込み)定食だそうです。
その他のメニューを紹介すると、15元セット:辣子肉丁(豚肉辛味炒め)定食、肉燒海帶(豚肉と昆布炒め)定食、30元セット:素燒三鮮(野菜炒め)定食、45元セット:宮保雞丁(鶏肉とビーナツのピリ辛炒め)定食、65元セット:水晶蝦仁(エビの炒めもの)定食、99元セット:上記の黒椒牛仔骨定食などがあります。
こうして見るとメニューも多彩で、価格帯も手ごろそうに見えますが、利用者の不満の声が高く、中国のネット上では「日本の駅弁とはまだ比較にならない」とこき下ろされているようです。
中国人はもともと冷たいものを食べる文化がないので、中国人にとって日本の駅弁は「冷や飯」を食べているような感覚だそうです。とはいえ、日本の駅弁はやはり群を抜いていて、中国の弁当はいくら改善しても「日本の駅弁には敵わない。したがって、中国では「不味くて高額な弁当」を買う人は極めて少ないそうです。
では長旅(首都北京から南部の大都市広州市まで1900km、最も速い列車で8時間以上かかる)はどうするか、「多くの乗客は乗る前にインスタントラーメンを購入し、持ち込んでいる」そうです。
◆対する台湾の便當
上海レポートでは台湾の駅弁を次のように紹介しています。
「繊細さはないが日本の駅弁に近く、名称もそのまま『弁当』を使っており、日本の影響を色濃く感じる。しかし、日本の駅弁とちがって、おかずを仕切りで分けずに、ご飯の上に肉が豪快に載っており、そのすき間に煮卵や野菜があることだ」「値段も人民元で20元(約330円)ほどと高くはなく、肉、卵、野菜がバランスよく盛りだくさんの内容である」「口に入れると格別の美味さで、弁当とはいえ手を抜かずに非常に美味しい」と称賛しています。
ある記事(TAIWAN TODAY)によれば、台湾式弁当のひな型は「鉄路便當」で、日本の駅弁から来たものであるが、「台鉄便當」「福隆便當」「池上便當」「奮起湖便當」が有名であるとのこと。日本人にもよく知られる「台鉄便當」は台湾鉄道が1949年に売り出した。当初は、豚の骨付きバラ肉を煮た「排骨」が一切れに、煮卵、カラシナ、たくあん、豆乾(固くつくられた豆腐)がおかずで、アルミ製の丸い容器に入れたものであったといいます。
私が住む台南の一画は大学街であるせいか、学生向けの店が多く、「便當」を販売する店がいたるところにあります。最近は少々値上がりし、一食だいたい70元(日本円3.8円で換算して270円)くらいで、紙の容器の2/3に御飯を入れ、1/3の部分に野菜料理が3種類載り、ご飯の上に主菜一種、主に「排骨」(豚の骨付きバラ肉を揚げたものや煮たもの)、「香腸」(中華風ソーセージ)、「鶏排」(鶏の肉を揚げたもの)、「魚排」(魚の切り身を炒めたものや揚げたもの)などのいずれかが載せてあります。
ご飯は電子ジャーで保温されているものを客の面前で盛り付け、主菜もその場で揚げていますので、台湾の「便當」は暖かいものが普通です。
弁当は台湾の人たち全ての飲食文化で、小学校から高校まで、学生は皆弁当をもって登校した経験があるそうです。面白い話が載っていました。2008年、馬英九総統は就任式の日、日本からやってきた祝賀団を「鉄路便當」でおもてなししたそうで、これは外交史上初めての試みとして注目されたということです。
◆日本の弁当
私が日本で食べる弁当は、最近ではもっぱらコンビニ弁当ですが、帰国のつど日本のある会合に出席し、そこでサラリーマン向けの弁当を頂きます。1食450円で、2段重ねの弁当は、1段目に白飯、2段目におかずが、揚げ物(コロッケ、かつなど)、煮物(魚、野菜など)、生野菜、漬物などが入っています。インスタントみそ汁もついています。もちろん御飯もおかずも朝配送されますので、みな冷めていますが、別に冷凍されているわけではありませんので、特に苦にはなりません、いや美味しくいただいております。
日本の最近のコンビニ、スーパーマーケットなどは独居老人向け、老人世帯向けに弁当、おかず、惣菜類を多種多様な品ぞろえで提供してくれています。もちろん台湾のコンビニも多種多様な「便當」などを売っておりますが、その比ではありません。
ありがたいのは煮豆にせよ、サラダにせよ、漬物にせよ、皆1人1食分のパッケージです。自炊の場合、1人1食分作るのは至難です。
昔、ある外食産業を専門とするコンサルタントが述べていましたが、お店を流行らせるコツは「ご飯」を美味しくすることだそうです。個人的感想ですが、温かいご飯であれば申し分ありませんが、日本のお弁当の御飯は冷めていても皆美味しく、別にまずいと思ったことはありません。
「上海からのレポート」によれば、日本の駅弁は現在2000〜3000種類あると言い(一説には5000種類・・・・、ほんとかな〜?)、東京駅では全国500種類以上の駅弁が購入できると紹介しています。
スペインの研究者による論文「弁当と日本文化」では、弁当の種類を(1)「中身による分類」として22種類(おにぎり、鮭、松茸、うなぎ、海苔、日の丸、寿司、釜飯、サンドイッチなど)、(2)「弁当を使う行事による分類」として25種類(花見、紅葉狩り、月見、運動会、幕の内、駅弁、宅配、学生など)、(3)「容器の種類による分類」として20種類(かれいけ、飯盒、破子、櫃、重箱など)と紹介しています。要するに日本における弁当は非常に多種類あり、生活・文化に密着していると述べているのです。
◆そもそも弁当とは
辞典によりますと、弁当とは「外出先で食べるために、容器などに入れて持っていく食事。また、仕出し屋や専門店が作った同じような形式の食事」だそうです。たかが弁当、されど・・・・。
論文「弁当と日本文化」によりますと、「しかし、日本では弁当も多々様変わりし、レストランで特別メニューの贅沢な容器にもなっている。レストランの弁当や弁当箱は、お客を殿様・大名・貴族あるいは富裕な商人の気分にしてくれる」と書いています。
◆おわりに
日本人が弁当をかくも発展させたのは、日本人の「遊び心」と「改善改革の心」ではないでしょうか。そして、厳しい市場競争がそれを助長したものと思います。矢張り、競争のない世界では発展・発達は望めません。
日本人の「キャラ弁(パンダ、ポケモン、ドラえもんなど)」、台湾の人々が「駅弁」で賓客をおもてなしされたとは、この「遊び心」が素晴らしいですね。