産経新聞は、呉部長が「重点は非伝統的脅威にある」として「災害救助や国際犯罪捜査協力、サイバーセキュリティー」という非軍事的分野における脅威について対話する「当局間の協力の『制度化』が必要」だと強調したことを伝えている。
本誌ではこの件について、第一次安倍政権で設置された「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」のメンバーでもある田中明彦・政策研究大学院大学長の「サイバーセキュリティーなどの分野では、実務者協議だけで効果を上げることができる」という発言も紹介した。
また本会は、蔡総統や呉部長が強調した「非伝統的脅威」への対応について、昨年3月に発表した政策提言「台湾を日米主催の海洋安全保障訓練に参加させよ」において、多発する非伝統的脅威への対応という共通課題へ対処するため「ウエストリムパック」(環西太平洋多国間海洋安保共同訓練)の開催を提案している。要点は下記のとおりだ。
<国際・地域テロ、海賊、捜索・救難、大規模自然災害など、非伝統的海洋安全保障面でも対応力が十分でない国家が多く、装備、運用、後方支援面での能力向上が求められている。そこで「自由で開かれた印度・太平洋地域戦略」の一表徴として本訓練を位置づけ、地域諸国の非伝統的海洋安全保障能力の地域全体での対応力の向上を図るものであり、参加不可欠の地域メンバーとして台湾を招聘するものである。>
この政策提言は日本語だけでなく漢文訳と英語訳も付し、蔡総統や呉外交部長にもお送りし、蔡総統や台湾軍幹部から丁重な礼状をお送りいただいている。
さらに、蔡総統がインタビューで「日本側には法律上の障害を克服してほしい」と述べ、それを呉外交部長が具体的に「当局間の協力の『制度化』」と補足していることを考え合わせれば、日本側が台湾との対話を位置づける法律を制定して欲しいという要望だと受け止めるのが自然だろう。つまり、日本版の台湾関係法を制定して欲しいという要望だ。
これについても、本会はすでに6年前に政策提言として「我が国の外交・安全保障政策推進のため『日台関係基本法』を早急に制定せよ」を発表している。
ただし、日本版の台湾関係法(日台関係基本法)という表現は、武器の供与などを定めた米国の「台湾関係法」(1979年)を想起させかねない。謝長廷・駐日台湾代表から「日台交流基本法」と言い換えたらどうかと提案されたことを受け、最近は「日台交流基本法」と表現している。
いずれにしても、国際・地域テロ、海賊、捜索・救難、大規模自然災害、サイバーテロという「非伝統的脅威」について、日台間で対話を進めるためには枠組みづくりをしなければならない。米国が台湾関係法や台湾旅行法を国内法で制定し、中国が国内法の領海法を定めて台湾や尖閣諸島を自国領と規定したことに鑑みれば、日本もまた国内法で台湾との対話を制度化する法律を制定するのがベストだ。
菅官房長官が表明したように、重要なパートナーと位置づける台湾と「友好関係を継続していくのは当然」なのだから、日本は台湾の要望に「適切な対応」を講じなければなるまい。
◆2018政策提言:台湾を日米主催の海洋安全保障訓練に参加させよ http://www.ritouki.jp/index.php/info/20180423/
◆2013政策提言:我が国の外交・安全保障政策推進のため「日台関係基本法」を早急に制定せよ http://www.ritouki.jp/index.php/info/20130425/
—————————————————————————————–台湾・呉外交部長「安保対話の重点は非伝統的脅威」【産経新聞:2019年3月14日】https://www.sankei.com/world/news/190314/wor1903140037-n1.html
【台北=田中靖人】台湾の呉●(=刊の干を金に)燮(ご・しょうしょう)外交部長(外相に相当)は14日、台北の外交部で海外メディアと会見し、蔡英文総統が2日付の産経新聞との会見で呼びかけた日本との安全保障対話について「重点は非伝統的脅威にある」と述べ、具体的な対話の課題として災害救助や国際犯罪捜査協力、サイバーセキュリティーを挙げた。
呉氏は、台湾側の関心事として「確かに軍事(部門)はある」としながらも、「相当に敏感(な問題)であることも分かる」と日本側の反応に一定の理解を示した。
ただ、呉氏は日台間にはすでに「トラック1・5」と呼ばれる半官半民の対話が存在するため、「双方の当局間のさらなる協力を促すもの」が望ましいとして、当局間の協力の「制度化」が必要だと訴えた。
蔡氏は産経新聞の取材で、中国の脅威を念頭に「安全保障の実務における対話を高めたい」と日本側に対話を要請。軍事情報の共有についても意欲を示していた。これに対し、菅義偉官房長官は8日の記者会見で、日台間は「非政府間の実務関係」だとし、その立場に基づき「適切に対応していく」と述べていた。