「ヴェクトル21」10月号より転載
日本青年社 常任理事 水野 孝吉
尖閣諸島は日本の領土であることは疑う余地がない。中国に対しても台湾に対しても日本は「尖閣諸島に関する領土問題は存在しない。」という毅然たる態度を堅持すべきである。
さて今回の中国漁船による尖閣諸島の領海侵犯問題で、中国と台湾が連携して日本を攻める様相を呈するかにも見えるが、この問題で台湾を中国と同一視すべきではない。
日本は尖閣諸島を領有した1895年、台湾をも領有した。台湾人は1952年4月28日のサンフランシスコ講和条約が発効するまでは日本国民であった。そして戦後も台湾の漁民は1972年にアメリカが日本に沖縄を返還するまで、尖閣諸島近辺で自由に操業していた。
一方その前年から、中華民国と中華人民共和国が、大規模油田がある可能性を指摘した海底資源調査発表をきっかけに、領土権の主張し始めていた。それ以来尖閣問題が浮上する度、中国と台湾の「連合体」が日本と対抗する形になっている。
無理もない。台湾では尖閣諸島の問題に対する理解が乏しく、蒋介石国民党政権時代の宣伝を鵜呑みにしている側面がある。しかし、李登輝氏が「尖閣諸島は日本の領土だ」と明言してからは、その様相も大きく様変わりした。尖閣諸島で騒いでいるのは台湾内部の親中国派だという認識が広がり、中国と一線を画すべきだという主張が日に日に強くなっている。
日本はこの台湾での微妙な変化を捉えるべきではないか。なぜなら、例え尖閣諸島であれ、世界で一番親日的な台湾を中国と同一視にすべきではないからだ。台湾は実質的にアメリカの影響下にあるが、日本もアメリカの最重要な同盟国である。その関係からして日米台は実質的な同盟国であり、東アジアの安全保障の要になっているといっても過言ではない。
そしてそれに対して中国は、尖閣諸島問題で台湾を自国の側に引っ張り、中台連合体を形成して日米台の連帯を崩そうとの策略に出ている。
中国には法と理の立場で毅然たる態度をとるべきだが、かつて日本国民であった台湾人には情を持って接するべきなのではないか。そのためには、台湾に尖閣諸島は日本の領土であるとの前提で、漁業権問題交渉を通じて台湾の漁民に操業の許可を与えることは望ましい。
領土と主権の問題では一歩も引くことはできない。漁業権も主権の一部と考えれば、台湾に譲歩すべきではないとの考えも分かる。しかし、それは理と法の論理であり、台湾には情という部分をそれ以上の重みを置くべきではなかろうか。その小さな一歩の譲歩が、実は台湾と日本の大きな安全保障に繋がるのである。
※ 参考 魚釣島灯台Uotsurishima N 25°44′5″ E 123°27′6″
灯高 18 白やぐら形 FIW5s 単閃白光 毎5秒に1閃光