今年は終戦六十年の節目の年を迎え、この年に李登輝学校を卒業した皆様が中心となっ
て「台湾出身戦歿者慰霊祭」を開催されると聞き、大変感銘を深くしております。
かつての大東亜戦争には私も京都大学の学生のときに学徒出陣し、台湾の高雄高射砲部
隊に配属され、その後、内地の千葉県習志野の防空学校に移り、終戦は陸軍見習い士官と
して名古屋で迎えました。
この戦争では二百万人を超える日本人が戦死しており、その中には約三万人の台湾出身
者も含まれております。私の兄の李登欽もその一人です。日本名を岩里武則といった兄は
マニラで戦死しておりますが、海軍に志願し、左営の海軍基地に初年兵として配属されて
いたとき、私も高雄高射砲部隊に配属されましたので、二人で高雄の町で会って写真を撮
ったのが最後となりました。
私も遺族の一人として靖国神社に参拝することを念願しております。私どもが現在の生
あるは、まさに自らの命を顧みずに戦った父祖たちがいたからに他なりません。お国のた
めに亡くなった方々を慰霊するのは、後世の者として当然のことです。その点で、一国の
首相が自分の国のために命を亡くした英霊をお参りするのは当たり前のことで、小泉首相
の靖国神社参拝に異議を挟む余地はありません。
私も総統の任にあった一九九〇年、台湾と日本の方々が協力して、台湾出身戦歿者の慰
霊碑を台中の宝覚禅寺に建立するというので、一国の元首として心を込めて「霊安故郷」
と揮毫しています。英霊を慰霊顕彰するのは当たり前のことなのです。
本日の慰霊祭には参列すること叶いませんが、台湾の地から英霊の方々に謹んで哀悼の
意を表するとともに、皆様方のお志に感謝申し上げます。
二〇〇五年十二月四日
前台湾総統 李 登輝