【10月29日 産経新聞】
論説副委員長 矢島 誠司
以前、台湾独立派といわれる台湾の人たちからこう聞いて、驚いたことがある。それ
ではどこからの独立なのか。
「戦後、台湾に乗り込んできて台湾人を支配した中国国民党政権からの独立」だという。
なるほど、と思ったが、では中国からの独立は、と聞けば、
「一度も支配されたことがない国からの独立を言う必要はない。ただ、中国が不当にも
台湾を奪おうとするなら、われわれは祖国を守るために戦うばかりだ」
このとき以来、台湾問題の核心の一部が少しは分かった気がしている。その国民党政
権からの独立は2000年の台湾総統選挙で台湾生まれの政党の陳水扁氏が当選し、すでに
果たしている。
だから、いまも使われる「台湾独立」という言葉には、ややひっかかりも覚えるのだ
が、中国側はいまも、「台湾独立は絶対許さない」と言い続けている。
先の中国共産党大会で胡錦濤総書記は「両岸(中国と台湾)の敵対状態の正式な終結」
のための対話を呼びかけた。しかし、敵対したのはかつての中国国民党で、台湾の人か
らすれば、われわれは中国と敵対しているつもりはないのに、という思いではないか。
とはいっても、中国側は着々と軍事力増強を図っている。軍事力バランスが中国側に
傾く日も近いとされる。中国が圧倒的な軍事力を築いた後に、台湾に「統一」を迫れば、
戦わずして「平和統一」ともなりうる。
だが、「中国からの独立運動」は、そうした事態になってから起こるのだろう。台湾
の人たちの不安は、そんなところにもありそうだ。台湾出身の評論家、金美齢氏の近著
『夫婦純愛』を読みながら、こんなことを考えた。