政府は16日、5月の中国の胡錦濤国家主席来日時に発表する政治文書では、台湾に対
する従来の政府の立場を堅持し、中国側が求めてきた「台湾独立への不支持」は盛り込
まない方針を固めた。また、未来志向の日中関係と戦略的互恵関係の強化をうたう一方、
平成10年の日中共同宣言で「遵守」が明記された日本の植民地支配と侵略を謝罪した村
山談話と、世界が注目するチベット騒乱については言及しない見通しだ。
政治文書は、福田康夫首相と胡主席の会談内容や重要合意事項をまとめるもので、国
家元首の約10年ぶりの訪日を重視する中国側が作成に熱心だ。昭和47年の日中共同声明、
53年の日中平和友好条約、平成10年の日中共同宣言に続く「第4の政治文書」と位置づけ
たい意向だという。
日中間の基本問題に関して双方の首脳が合意した内容を確認する共同文書をめぐって
は、その作成過程で両国間でこれまでも激しい議論の応酬や駆け引きが繰り広げられて
きた。
日中共同宣言の際には、中国側は歴史認識をめぐり、日本側の「謝罪」を文書に明記
するよう要求。これを当時の小渕恵三首相が「謝罪要求はこれで本当に最後なのか」と
疑問を示して突っぱね、日中外交当局が対立した。ただ、同宣言には一方で、「平成7
年の内閣総理大臣談話(村山談話)を遵守し」との一文が入った。今回は未来志向を重
視する立場から文書への明記は避けた。
台湾問題をめぐっては、中国は昨年4月の中国の温家宝首相の来日時に、共同文書に
「台湾独立を支持しない」と盛り込むことを強く求めてきた。日本側は台湾について「中
国政府の立場を十分理解し、尊重」とする昭和47年の日中共同声明の立場を譲らなかった
ため、最終的に中国側が折れ、「台湾問題に関し、日中共同声明において表明した立場
を堅持する」とする日中共同プレス発表を出している。
【視点】日中 内容薄いセレモニー
国交正常化、平和友好条約締結、江沢民前国家主席の訪日と、日中関係の大きな節目
でまとめられてきた政治文書が、5月の胡錦濤主席の訪日時に改めて「第4の政治文書」
として作成されることは、中国が今回の日中首脳会談を重視している表れといえる。
また、日本政府が中国の最大の関心事である台湾問題について従来の姿勢を守り、10
年前の日中共同宣言にはあった村山談話の遵守を盛り込まない方針を決めたのは、日中
双方が未来志向の関係の定着に自信を深めているためだろう。
昨年末の福田康夫首相の訪中では、日中間の政治課題、基本問題に関する文書は作成
されなかった。日中関係に最も心を砕いてきた首相にとって、第4の政治文書は外交で
稼いだ貴重な得点であり、「本望」であるのかもしれない。
ただ、政治文書は、中国製ギョーザ中毒事件についても直接言及しない見通しだ。
「日中間のキーワードである戦略的互恵関係の構築は明記するが、安倍内閣時代の2回
の共同報道発表で言い尽くしており、今回の文書は内容の薄いものになる」(政府筋)
ようだ。 (阿比留瑠比)
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