つい最近も海洋活動に関して、外交部の報道官が定例記者会見で「日本側が歴史を鑑と
して、地域の平和と安定の維持に建設的役割を発揮することを希望する」と言っていた。
確か今年のはじめ、習近平も訪中した公明党の山口那津男代表と会見した際に「歴史を
鑑として初めて中国と日本は未来に向かうことができる」というようなことを言ってい
た。そして、日本は歴史問題を正しく処理すべきだとも。
中国は歴史を鑑とすることがよほど好きらしい。しかし、事前協議もなく、日本には設
定直前に通告してきた「防空識別圏」問題を見ていると、中国こそ歴史を鑑としておら
ず、歴史からなにも学んでいないように見える。また、中国こそ地域の平和と安定を維持
するどころか破壊しているように思える。
1996年、李登輝氏が住民による総統直接選挙を実施したとき、中国は演習と称して砲艦
外交に訴えた。心理的圧力をかけて台湾をねじ伏せようとした。ところが、この脅しは逆
バネとなり、李登輝氏を奮い立たせ、台湾を一つにまとめてしまった。以来、台湾の人々
の大半は中国が大嫌いとなった。
そこで中国は、親中派の馬英九政権になったことをきっかけに「砲艦外交」を引っ込
め、裏で台湾向けミサイルを増強する一方、経済的に台湾をからめとる戦術に変えた。
2010年に結ばれた経済協力枠組み協定(ECFA)がそれを象徴している。事実、それが
奏功していることは否めない。
しかし、2011年の世論調査(金車教育基金会による「国際観に関するアンケート」)を
みると、台湾の人々は「友好的でない国・地域」のトップに中国を上げている。中国は2年
前の2009年の82.9%より5ポイントも上がって87.9%となり、2位韓国の47%を圧倒的に引
き離し、台湾の人々から好かれていない現状が浮き彫りになっている。
砲艦外交の記憶が未だ新しいことに気づいていないばかりか、中国との統一をめざす馬
英九総統でさえ中国にミサイル撤去を要求しているのに一向に応じないからだ。
そこに今度は「防空識別圏」のサプライズ設定だ。こんなサプライズは御免蒙りたい
が、昨日の本誌でお伝えしたように、アメリカも日本も台湾も、真っ向から批判の狼煙
(のろし)を上げた。韓国などは「中国に事前通報しない方針」を表明し、中国への反発
をあらわにしている。
「防空識別圏」のサプライズ設定も中国お得意の砲艦外交という強硬策なのだろうが、
台湾の国防部が「日米とは連絡が取れており、区域の安定を共同で維持したい」と表明し
たことに如実に現れているが、はからずも日米台の結束を固めてしまったようだ。中国は
またもや逆バネを効かしてしまったのだ。
今年4月の日台漁業協定の締結をきっかけとして、日米台の結びつきは従来よりも強くな
っている印象を受けていたが、この「防空識別圏」サプライズ設定で、日米台が絆をいっ
そう強めたことは疑いない。そこに韓国まで入れてしまった。
つまり、1996年の砲艦外交失敗の轍をまたも中国は踏んでしまったといえる。中国が歴
史に学ばず、鑑としていないと述べた所以だ。中国が日本に「歴史を鑑とせよ」と言うの
は、「俺の言う通りにせよ」と同じ意味だったことがこれで明らかになったとも言える。
防空識別圏問題 「台日米は連絡が取れている」=台湾・外交部
【中央通信社:2013年11月25日】
(台北 25日 中央社)国防部は24日、中国大陸が設定した東シナ海防空識別圏について
「(台湾の)現状を維持し、いかなる情勢の変化も受けることはない」とコメントしたほ
か、外交部の林永楽部長も25日、「日米とは連絡が取れており、平和的対話の方法によっ
て区域の安定を共同で維持したい」との考えを示した。
中国大陸が23日発表した東シナ海防空識別圏に釣魚台列島(日本名:尖閣諸島)が含ま
れ、上空を飛行する航空機が中国大陸側の指示に従わなかった場合は「防御的緊急措置」
を取るとしている問題で、国防部の羅紹和報道官は、台湾周辺の海域および空域における
厳重な監視体制を維持する方針を示し、防空識別圏に侵入した未確認の航空機に対して、
「国軍は基本的な作業順序と関連の規定に従った上で対処し、領空の安全を守る」と発表
した。
また、外交部の林部長は「政府は中国大陸の主張する防空識別圏について認めない立場
を公表するのか」とのメディアからの質問に対して「関連部署が検討している」と明確な
解答を避けたものの、きのう日米と必要な連絡を取り、「平和的な対話によって紛争を解
決する」との認識を示した。
このほか林部長は「政府の主権と漁業権を維持する立場は変わっていない」として、中
国大陸の防空識別圏設定にも台湾の姿勢や認識に変化はないと強調した。