に関する「物品貿易協定」の交渉も日程が決まらない状態だった。
しかし、中国が台湾との航空、観光、海運、郵政などの実務協議を停止した途端、台湾の大陸委
員会は12日に中国の国務院台湾事務弁公室主任が23日からの週に訪台すると発表、立法院も13日、
6月30日から「自由経済示範区特別法」「両岸協議監督法」「サービス貿易協定」を審議する臨時
会の議事日程を決めた。符節が合いすぎる。中国となにか裏取引があったのではないだろうか。
ところで、「太陽花学運(ひまわり学生運動)」が台湾にもたらした意義については、日本でも
多くの識者が指摘しているが、中でも目を引いたのが、中日新聞の台北支局長で論説委員をつとめ
たジャーナリストの迫田勝敏(さこだ・かつとし)氏が「歴史通」7月号(6月9日発売)に寄稿し
た論考だ。
すでに迫田氏は、ひまわり学生運動について本誌に「野いちごが鋼になった」を寄せていただい
たが、「歴史通」に寄稿した「日本のマスコミが報じない台湾50万人デモの大波 大陸に呑まれて
なるものか」は、本誌論考と主旨は変わらないものの、台湾在住の強みを活かした綿密な取材が存
分に発揮されていて読み応えがある。
この論考で迫田氏は、ひまわり学生運動の原点は2008年11月から2ヵ月に及んだ「野草苺(のい
ちご)学生運動」にあったとして、この運動で学生たちは政党色を脱して市民の共感を得たり、
ネットを駆使するなど、社会運動のノウハウを学び「社会の矛盾に正面から立ち向かい始めた」と
指摘する。
また、ひまわり学生運動は日本語世代にも「新たな国造りへの意欲を再燃させている」として、
以下のエピソードも紹介している。
立法院付近を取材していた迫田氏に『台湾四百年史』の史明氏(96歳)が声を掛けてきて、「素
晴らしい、ぜひ、日本で報道して欲しい」と語ったことや、台湾独立建国聯盟日本本部の委員長を
つとめたこともある実業家の辜寛敏氏(87歳)が「台湾の将来に光が見えたよ」と話し、台湾の主
要紙に学生運動を支援する意見広告を出したことを紹介している。
李登輝元総統についても「デモ支援に行こうとしていたという」と記している。事実、李登総統
は新著『李登輝より日本へ 贈る言葉』の「はじめに」で次のように書かれている。
<この十数日の間、学生たちが台湾に対して見せた情熱や理想の追求は明るい希望をもたらしてく
れました。そして三月三十日には、総統府前でサービス貿易協定の密室協議に反対するデモを行
い、台湾の歴史上例をみない五十万人(主催者発表)という人々が総統府前広場を埋めたのです。
実はこの日、私も参加したいと思っていたのですが、二人の娘と孫娘に「まだ風邪が完全に治っ
てないでしょう。そのかわり私たちが行くから」と諭される始末でした。
帰宅した孫娘が興奮気味に「本当にたくさんの人が集まっていて身動きもとれなかった。あんな
にもたくさんの台湾人が立ち上がったのよ」と報告してくれるのを聞きながら、私は学生たちに対
して感謝の念さえ持ち始めていました。>
迫田氏は、台湾の学生運動は、中国に呑み込まれるリスクが高まる中、統一か独立かといういわ
ゆる「統独論争」のイデオロギーを超え、「市民と手を携えて自分たちの手で身近な問題から一つ
一つ解決し、明日への希望を取り戻そう」とする活動だと剔抉する。一読をお勧めしたい。
◆「歴史通」7月号[ 2014年6月9日発売 定価824円(税込)]
http://web-wac.co.jp/magazine/rekishi/