【黄文雄】日本の外食産業が「グルメ天国」台湾で愛される理由

【黄文雄】日本の外食産業が「グルメ天国」台湾で愛される理由

メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』より転載

● 王将フードサービス/台湾に焼餃子を展開する子会社設立

「餃子の王将」が台湾進出です。今更な感じがしますが、台湾への出店ははじめてです。過去に中国の大連へ出店し6店舗ほど展開したことはありましたが、対中ビジネスの難しさを克服できず、撤退したという経験はあります。報道によれば、日本では各地に700店舗以上を展開しているため、新たな市場を求めて台湾に進出するとのことです。

台湾にはこれまでも多くの日本の外食チェーン店が出店しています。カレーのCoCo壱番屋、牛丼の吉野家、牛丼のすき家、定食の大戸屋、ラーメンの一風堂などのほか、セブンイレブンやファミリーマートなどのコンビニも多く見かけます。

日本で、台湾はグルメ天国と言われるように、もともと小吃と言われる屋台フードが豊富ですし、多くの家庭が夫婦共働きであるため外食産業はかなり充実しています。日台の歴史的関係を知らなければ、そんな台湾で日本の外食チェーン店が入り込む隙があるのかと疑問を持つかもしれません。しかし、日台には他の諸外国にはない特殊な歴史的関係があります。

そこには50年に及ぶ日本の台湾統治時代にカギがあります。日本の台湾統治は、いわゆる植民地統治ではありませんでした。日本は内地と同様に台湾を統治し、台湾人との交流を図りました。それまで何もなかったと同様の台湾に、レベルの高い教育、医療、行政、インフラなどあらゆる社会的基盤を導入し、教育の現場では規律正しく品行方正な教育を行い、武士道に基づく日本精神を教師自らが手本となり生徒に教え込みました。

そうした毅然とし凛とした日本人の姿勢を見た台湾人は、自然と日本人になることに憧れました。終戦後、日本が引き揚げた後の台湾は蒋介石率いる中国国民党が統治しましたが、これがまためちゃくちゃだっただけに、台湾人にとって日本統治時代はより懐かしく憧れのものとなったのでした。

台湾から引き揚げた日本人たちも、台湾での生活を懐かしく、台湾に戻りたいと死ぬまで焦がれていたようです。このことは、台湾映画『湾生回家』で証明されています。

● 湾生回家

こうして日台の相思相愛が生まれ、その流れは今につながっています。日本や台湾で天災が起こるたびに支援の応酬が日台間で繰り広げられているのも、こうした歴史的背景があるからです。この関係性は、世界中のどの国にもない日台独自のものです。

グルメ天国台湾で日本の外食チェーンが人気なのも、こうした背景と大いに関係があります。日本の外食チェーンは、台湾の食堂の値段と比べると2〜3割増しと少し高めの価格設定です。

例えば、ランチは水餃子の店など台湾の食堂で食べれば高くても100台湾元以内で食べられるのに比べて、日本の吉野家などの外食チェーンで食べると140台湾元前後と割高です。それでも需要があるのは、やはり日本の企業だからです。

台湾での日本ブランドの信頼感は根強く、それは製品や食品への信頼感だけでなく日本そのものへの信頼感の現れです。今回の「餃子の王将」の台湾進出は、どこまで過去の事情を知った上でのことかはわかりませんが、日台間には特殊な空気があるということは知っているからこその台湾進出でしょう。特に中国で失敗した後なだけに、慎重になっているはずです。

王将にはアメリカ進出の噂もありましたが、安全を期すためにも台湾がベストな選択だということになったのではないでしょうか。前述したように、台湾の日本への信頼は非常に大きいからです。ジャンルは問いません。外食、家電、医薬品、車など、日本が作ったものはすべて信用しています。だからこそ、グルメ天国の台湾で、割高な日本の外食チェーンも需要があるのです。

台湾では水餃子が中心で、王将の看板メニューである焼き餃子はあまりポピュラーではありません。水餃子の店は道を歩けばぶつかるほどあります。また、台湾にも焼き餃子をメインにしたチェーン店「八方雲集」があり、チェーン店なのに餃子は各店内で皮に餡を詰める新鮮さが受けて人気の店となっていますが、ここも焼き餃子のほかに水餃子も当然あります。

台湾は、食の面では充実していて飽和状態と言ってもいいほどです。それでも、「餃子の王将」が台湾に出店すれば一定の需要はあるでしょう。繰り返しますが、それは日本の企業だからです。

これが中国だとそうはいきません。政治リスクが非常に高いからです。たとえばあのマクドナルドも中国で失敗しました。アメリカ系の外食産業は「早い」ことが特徴であるため、中国人の口には合わない上に、政治問題も絡んでくると長続きはしません。特にマクドナルドは、クリントン元米大統領が江沢民との関係を使って中国進出を果たしただけに、習近平の時代になると中国での勢いは衰えていきました。

2014年には中国にある米系食肉企業が期限切れ鶏肉や牛肉を使った加工肉をマクドナルドに納入していたことが発覚して、マクドナルドは大打撃を受けました。

そしてマクドナルドは今年1月9日、中国中信(CITICリミテッド)が率いる企業連合に同国事業の80%の株式(約2,300億円)を売却することで合意したと発表しました。つまり中国事業を売却したわけです。日本でも、マクドナルドの悪戦苦闘はよく報じられています。

一方で、中国から海外に輸出される食品は、安全面で警戒される例が多くあります。日本では、かつて2008年に毒餃子事件があり、それ以降、中国食品の安全性にさまざまな問題点が見つかったことで、中国の食品はスーパーの棚から姿を消したことがありました。

しかし、2011年3月11日の東日本大震災後は、福島県産の食品がスーパーから消えた替わりに中国産の食品が再び並ぶようになりました。

台湾では、今でも福島県産の食品を輸入することに反対している国会議員がいますが、これも国民党系勢力が中心となっての動きです。中国人の間では、戦前の日本製品ボイコット運動の余波が今でも続いているのです。

それでも「日本製」というブランドは、長い歴史を経てその実力を徐々に証明してきた努力が実り、今では台湾をはじめとして世界でその実力が認められています。日本製品ブランドを守ることは、日本の伝統文化を守ることにもつながるのです。

日本食は「長寿食」というイメージがあり、世界各地で好評です。私の友人は、スウェーデンで和食店を経営しており寿司も提供しています。なぜ日本食なのかと聞いたところ、日本食には固定ファンがいるから客もつきやすいとのことでした。

ただ、日本食は提供するのに時間がかかり、「速さ」を求めるアメリカ人のライフスタイルには馴染まないかもしれません。本来の日本食というのは、じっくりと時間をかけて目と舌で楽しむものであり、速さを求める「快食」とは対極にあるものです。

日本の外食チェーンはそれをよく研究した上で、「快食」と「安さ」を追求した商品づくりを行い、海外でも気軽に利用してもらえるようなスタイルにしたかたちでの「和食」の提供を行っています。日本の外食チェーンが台湾以外の世界各国でも人気なのは、こうした細やかな研究と繊細な味に支えられてのことでしょう。