【論説】尖閣問題で高まる憲法改正意識

【論説】尖閣問題で高まる憲法改正意識

時局心話會 代表 山本 善心

わが国を取り巻く国際環境は厳しくなるばかりだ。これは富力の時代(経
済至上主義)から武力の時代(覇権主権)への転換期にあると、歴史学者
の言を待つまでもない。今や経済的には成熟時代を迎え、成長から衰退へ
の転換過程を迎えている。

この30年間、われわれはかつてない贅沢三昧の生活を享受してきた。そ
して経済的繁栄による、刹那的な快楽に酔いしれ、国民の大勢が精神の荒
廃にむしばまれ、無気力な国民に成り下がったとの見方がかまびすしい。そ
の間、少子高齢化に伴う人口減少や国家の未来を先送りしてきたツケが、
いまわが国の政治経済に重くのしかかっているようだ。 

隣国の中国は軍備拡張に明け暮れ、虎視眈々と周辺諸国やわが国領土
を狙っている。今回の尖閣騒動も漁民に扮した解放軍兵士が中国政府の
方針の下にとった行動であるが、このような危機的状況にも拘らずわが国
政府や霞ヶ関は事なかれ主義を繰り返して来た。目下、自国防衛問題でし
っかりした体制が急務とされている。

自衛隊は違憲か

わが国に迷走と衰退をもたらした最大の要因は日本国憲法にあると言って
よい。現憲法は作成当時、占領軍が“精神の植民地主義”を植え付け、日
本弱体化を目的として作成したものである。それゆえ社会主義革命派がそ
れに便乗し、巨大な組織と権力を構築するに容易であった。

わが国「平和憲法」は戦争を認めていない。自衛隊は軍隊ではないと言い、
戦争が起きれば同盟国の米軍兵士が血を流すのを横目で見ながら「お手
伝い(後方支援)しましょう」と言うのが関の山だ。

これまで旧社会党や日本共産党は自衛隊の存在は違憲であるとの見解
を説いてきた。当時、自衛隊違憲説は多くの憲法学者らによって盛り上が
りを見せて来たが、では自衛隊に代わって誰が国を守るのかという問いに
答えていない。

米ソ冷戦下でなおざりにされた憲法論議

戦後から現在に至るまで、経済至上主義の過程で憲法を論じることは限
られていた。それが出来たのは米ソ冷戦構造と不可分に結びついていた
からである。わが国は米国の軍事力に甘え、憲法の内容はおろか枠組自
体疑うことなく、自国を守るという概念と責任を放棄した経緯は周知のこと
だ。

しかし、過去に「自衛隊合憲説」が全くなかったわけではない。大別すると
憲法学の京都学派では佐々木惣一氏や弟子の大石義雄氏、林修正氏で
あり、その流れを汲む勝田吉太郎氏であった。勝田氏は、「京都大学の教
授らの大勢は赤く染まった布地であったが、そこにぽつんと孤立した白い点
線があった」と筆者に語ったことがある。その白い点線である勝田氏は憲法
改正の急先鋒となり、岸信介元総理らと全国に講演行脚に出られたのは知
る人ぞ知るところである。

日本解体を目論む護憲派

護憲運動は、わが国の解体を目論む旧社会党と共産党などにとっては終
局の標的であった。わが国を解体することですべてを共産主義に染め上げ
ることが彼らの仕事である。その左翼政治至上主義を実現するためには政
府や国民を洗脳し、天皇制廃止や憲法擁護の世論づくりの必要があった。

彼らの意図する世論形成には巨大な発行部数を誇る大新聞の先導が不
可欠であった。一部大新聞の購読者は旧社会党、共産党などを支持する
労組、市民団体などである。そして、護憲世論に反対する国民に対して“右
傾化・反動・軍国主義者”と烙印を押すことで巧妙に改憲派を牽制してきた
ものである。

しかし、護憲派の論理は矛盾だらけで、いまや周辺諸国からの脅威に対し
て機能不全だ。彼らの主張では国民の生命と財産が守れないし、矛盾の綻
びが北朝鮮による拉致問題であった。野党や一部大新聞はつい最近まで
拉致はないと言ってきた。その結果、旧社会党は消滅し、一部大新聞の発
行部数は大激減したと聞いている。

守るべき国家とは何か

これまで憲法論議はなおざりにされてきたが、尖閣諸島問題というわが国
への危機的状況が昂じて、憲法改正への国民の関心が高まりを見せ始め
た。

なぜ改憲か。わが国民が自国の憲法で武力を行使できないとする条項は
世界で初めてのケースではなかろうか。また自国の国旗に敬意を払わず国
歌を歌わない首相がリーダーであるのは世界の七不思議の一つと見られて
いる。愛国心のないリーダーを持つ、わが国民に未来があるといえようか。

これらの症状を治療するには憲法改正の焦点である第9条及び前文の改
正が急務ではなかろうか。誰でも憲法と言えば第9条を念頭に描いている。
憲法第9条では「国際紛争を解決する手段として」戦争を放棄すると定めて
いるが、相手国から攻撃を受けた際の自衛の行為については定められて
いない。尖閣や対馬を相手国の軍事力で奪われた場合はどうするのか。つ
まり現在から見ると第9条は自衛戦争を放棄する憲法だ。

安倍政権下で憲法改正に道筋

2007年5月14日、安倍内閣は憲法改正の手続きを定める国民投票法を
成立させた。憲法施行以来60年余、初めて具体的な憲法改正に一歩踏み
出すことができたのである。さらに、安倍首相は集団的自衛権に関する懇
談会を設置した。改憲案が関連する項目ごとに区分して発議する法案が成
立したことは喜ばしいことだ。

草案では「国権の発動たる戦争を武力による威嚇または武力の行使は、
国際紛争を解決する手段としては永久にこれを放棄する」とした憲法9条第
1項は添えおくとして、第2項だけでも全面改定して、平和と独立、国家国民
の安全を確保するため自衛軍を保持するとの内容に改正すべきではなか
ろうか。

時代の変革によって憲法を改正するのは世界の常識である。わが国憲
法が制定以来60年余、一度も改正されていないというのは異常であった。
しかも、憲法は占領下というどさくさに紛れて作られたものでなおさらだ。憲
法とは本来その国の賢明な祖先の叡智の中からの発見や積み重ねた結晶
に基づいてつくられる規律である。このような視点から、改正の必要がある
のはまず第9条の第2項であり、また89条の後半も検討を要する。わが国の
上空を北朝鮮のミサイルが飛び交い、尖閣周辺に横行する中国解放軍の漁
船等が存在感を強めるなか、国家緊急権の法制化こそは緊急課題だ。

自衛隊は憲法違反

そもそも戦争はなぜ起きるのか。戦争の定義とは、領土を巡る争いであり、
話し合いで解決しない場合は武力の行使によって紛争を終結させるのが戦
争の歴史であり、世界の常識に他ならない。ゆえに「一国平和主義」とは非
現実的であり、「日中友好」とは国民の警戒心を溶解するだましの文言だと
の意見もある。

かつての時代は「自衛のためであっても戦力は持てない」と社共両党は自
衛隊違憲説を唱えてきたが、今日では非現実的な考えであることは衆目の
一致するところだ。吉田内閣の時代には自衛隊を「戦力なき軍隊」と規定し
てきたが、現今の自衛隊は精巧な戦闘機や艦船、潜水艦、ミサイルなど世
界的にみて一級の戦力を擁している。社共両党はこれらの戦力は憲法違
反と言って来た。それでも護憲なのはわが国を弱体化し真っ赤に染めると
いう目的がある。

戦後、保守自民党も野党も憲法問題を政争の具として長年もてあそんで
きた感がある。保守政治の基本は、あくまで憲法中心である。警察予備隊
から保安隊、さらに自衛隊と進化していく過程を経て、世界でトップ3に入る
軍事大国になっていた。憲法を改正せず、軍事増強を進めてきたのは国民
に対するごまかしに他ならない。

今こそ国を守る憲法を

筆者はこれまで憲法問題については台北の大学で論文を発表したり、台
湾のシンクタンク「群策会」と共催で憲法をテーマにシンポジウムを開催す
るなど日台の地道な活動を行ってきた。今、わが国に欠けているのは、守
るべき国家とは何かという視点である。政治は国民の財産と生命を守る使
命があるが、事なかれ主義の与党をはじめ、国家観の背骨が溶解しつつあ
る政治にその視点は全く見られない。

今後経済はさらに衰退していくことが予想される。憲法制定以来60年余、
わが国は経済至上主義に溺れ、政治はわが国の国益や未来を先送りし、
自国を守るという最重要課題を放置してきた。

こうした状況下で、わが国民の間にも、政府は頼りにならない、亡国政府
との心理が長期にわたり醸成されてきた感がある。わが国を取り巻く国際
情勢がさらなる厳しさを増しているのは、国が国民を守らないと宣言した憲
法にそのすべての根元があると言えまいか。

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11月「政民合同會議」のご案内

11月4日(木)午前11時50分
※11月は木曜日に開催いたしますので、曜日にご注意下さい。

「尖閣列島事態、これからどうする日本」
講師/ 志方 俊之 氏 帝京大学教授・元陸上自衛官

今回の尖閣列島事態をどう見るか。当然起こるべくして起こった最悪の対
応だったが、どうすれば良かったのか。ただ菅直人内閣を攻めれば良いわ
けではない。失敗の原因の多くは自民党政権の負の遺産と言うこともでき
る。どうする日本、どうする日米、について考えたい。元自衛隊高官から見
た現場状況と方向性の分析は聞き応えがある。ご期待ください。

日 時/11月4日(木)
AM 11:50〜PM1:30
※11月は木曜日に開催いたしますので、曜日にご注意下さい。
会 場/衆議院第2議員会館
地下1F「第1会議室」
東京都千代田区永田町2−1−2
参加費/4,000円(お弁当代含む)
連絡先/時局心話會
�03-5832-7231

詳細はホームページhttp://www.jikyokushinwakai.jp/でご覧下さい
事前申込のない方はご参加できません。ご注意下さい。


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