時局コメンタリーより転載
評論家 拓殖大学日本文化研究所客員教授 黄 文雄
台湾の七十年華僑王国の崩壊
倭寇時代以後の南洋に日本人街があったことは知られているが、またタイの
国王タークシン(鄭信)のような華僑を王とする王国の興亡もあった。戦後台
湾における中華民国体制は、華僑王国そのものだ。2016年の国政選挙で、
日本の国会にあたる立法院でも民進党が単独過半数を占めたことで、中華
民国を名乗る華僑王国の七十年体制は完全崩壊したといえるだろう。馬英
九政権時代は、事実上すべてを中国に一任する「国防/外交休兵」が国策と
して唱えられ、国際的にも「対中急接近」といわれていた。民進党政権になる
と国防/外交に重点が置かれ、TPP参加まで公言された。「台湾丸」の新たな
航路は太平洋を目指しており、日米との関係強化は明白だ。南シナ海と東シ
ナ海の緊張が続く中、台湾の動向は国際力学関係の変化と連動して世界の
注目を集めるだろう。
中国からの「九二共識」の強要
習近平体制下の中国は毛沢東主義復活を目指している。政治局常務委員会
のトップセブンによる集団指導体制は弱体化し、党内抗争が激化しつつある。
経済成長も減速、弱体化する中、党内の求心力を高めるために「習核心」で総
力を結集する必要に迫られている。習以後の中国は「海洋強国を目指す」と公
言、「中華民族の偉大なる復興の夢」を強調するが、南シナ海を巡る島嶼争奪
戦ではハーグ仲裁裁判所がフィリピンの訴えを認め「中国の歴史主張にはまっ
たく根拠がない」との判決を出した。中国政府はこの判決を「ただの紙くず」と切
り捨てたものの、中国外交はいっそう孤立しつつある。そんな中で台湾が日米
に接近すれば、中国にとって弱り目に祟り目だ。だからこそ中台が「一つの中
国」について合意した「九二共識」を蔡総統に強要せざるを得ない。
日米台の同盟関係が進む
革命政権ならざる蔡政権は国内改革に忙殺されており、「現状維持」にも悪戦苦
闘している。蔡政権の公約する「五大改革」(世代間の正義実践、政府の効率改
革、国会改革、正義を目指す国家、政治的争いの終結)の中で、私がもっとも注
目しているのは、イスラエルをモデルとした国防力の強化とハイテク兵器開発で
ある。どちらも日米との同盟強化なくしては実現しない。ことにフィリピンのアメリ
カ離れが加速する中、西太平洋における台湾の地位は重要になっている。日本
のシーレーンを守ることは、その要の台湾を死守することにもつながる。今日で
も世界の海はアメリカの影響下にあり、太平洋までアメリカと二分しようとする中
国の姿勢は貪欲以外の何物でもない。日米が台湾を放棄しない限り、中国が太
平洋に出るのは難しくなる。台湾の経済はすでに南向しており、日米あっての国
防/外交だ。国際情勢から見て、日米台の同盟強化は避けられない趨勢となる
だろう。 (こう ぶんゆう)