2011.12.10 産経新聞
http://sankei.jp.msn.com/world/news/111210/chn11121007000001-n1.htm
来年1月14日投開票の台湾総統選挙の立候補者たちによるテレビ討論会の様子は、ツイッター(Twitter)などを通じて中国国内のインターネットに流れ、転載に次ぐ転載で影響力を拡大している。「台湾の民主主義がうらやましい」「中国の指導者はぜひ見習ってほしい」などのコメントが寄せられている。(北京 矢板明夫)
中国では台湾政治や選挙に関する報道は厳しく管理されている。例えば、「台湾総統」という言葉は国家元首のニュアンスが含まれているため、台湾を国として認めない中国では「台湾地区の指導者」と表現する。台湾の国会にあたる立法院も同じ。立法権は国の権限であるため、一地域に過ぎない台湾にあってはならないとの発想から「台湾の民意代表機構」と表現する。
今回の総統選挙について、国営新華社通信など官製メディアは「台湾地区の指導者選挙で、現職の馬英九候補は92年コンセンサスの重要性を強調」と言った中国にとって都合のよい部分を大きく取り上げたが、選挙の全体像を無視していた。「92年コンセンサス」とは、中国と台湾当局が1992年に国号の解釈をそれぞれに任せたうえ、大枠で「一つの中国」を確認するとした合意の通称だが、独立志向の民進党は「92年コンセンサス」の存在を否定している。
中国当局は、台湾の選挙情報が国内に流れ民主化運動につながることを警戒し、台湾の主要メディアのホームページへのアクセスを制限した。国内の大手ポータルサイト、動画サイトに対して関連情報の転載を禁止する通達を出したほか、台湾選挙に関するキーワードを含む記事を閲覧できないようにするなど規制を強化し、選挙情報が中国国内に入らないように対策を取った。
しかし、12月3日に行われた総統選挙の3候補によるテレビ討論の様子は、ネットユーザー個人が運営するツイッターなどを通じて中国国内に流れた。その内容はさらに、広く転載され、大きな反響を呼んだ。当局が動画内容までチェックすることは、難しかったとみられる。
動画を見て寄せた数万の書き込みの中、最も多い反応は「民主主義の教科書」「3人はともに素晴らしい」といった討論会そのものをほめたたえるものだった。討論会が中国語で行われたことが、ネットユーザーに大きな影響を与えた要因の一つとみられる。
「私たち中国人もやればできるのではないか」「中国でこのような討論会が行われるのはいつの日か」「総統選で負けた候補でいいから、中国の指導者になってくれないか」といった意見もみられた。
候補者個人への支持については、中国との関係強化を主張する中国国民党の馬英九候補が最も多かったが、最大野党の民主進歩党(民進党)の蔡英文候補や台湾で泡沫(ほうまつ)扱いを受ける親民党の宋楚瑜候補に賛同する声も少なくない。
台湾人の自立を強調する蔡氏の主張について「今まで聞いたことのない新鮮な意見」「確かに私たちは今まで台湾人の立場で物事を考えたことは少なかった」といった感想があった。「国民生活の向上」を強調した宋候補については「主張が一番分かりやすい」と評価された。「私たちは、科学的発展観、和諧社会と言ったわけの分からないことを毎日聞かされているから、宋さんに政治の原点を教えられた」という意見があった。
討論会を批判する声も散見され、「金持ちに雇われた操り人形が台湾人民をだまそうとしている」といった意見もあるが、これに対し「お前は当局の回し者だろう! 消えてくれ」「民主主義を侮辱するな」といった反発が瞬く間に多く寄せられる結果になった。