【産経記事】習体制・危険な民族主義

【産経記事】習体制・危険な民族主義

2012.12.25 産経新聞

                産経新聞中国総局長・山本勲 

 習近平氏を総書記とする中国共産党の新体制が発足して1カ月余り。習氏は来春には国家主席も兼任、党と国家の最高指導者として今後10年の中国の“かじ取り役”を務める。しかしこの間の習氏の言動を見守る限り、その強い民族主義的思考と、一党独裁堅持を最優先する保守的な姿勢に危うさを覚えざるを得ない。

 習近平総書記が先月15日の就任会見で「中華民族の偉大な復興を果たそう」との民族主義を鼓舞するスローガンをしきりに連呼したことは、先月の本欄でも触れた。

 あれから1カ月たってもその勢いはやまない。先月末にはテレビカメラを前にした約10分の演説で「中華民族」や、その「偉大な復興を果たそう」という言葉を20回近くも使った。習総書記は今月中旬の広東省視察でも、随所でこのスローガンを繰り返している。

 「中華民族の復興」という言葉は中国が欧米列強に蚕食されていた19世紀末から20世紀前半に孫文や蒋介石らが唱え、前世紀末には江沢民政権が“借用”したものだ。それをなぜ今頃になって持ち出すのか。真意を疑わざるを得ない。

 近現代史を振り返れば、独裁政権が国民の不満をそらすために民族主義を鼓舞し、対外侵略を繰り返した例はあまたある。

 中国共産党政権も1989年の天安門事件やソ連崩壊による独裁体制の危機を、江沢民政権の反日民族主義と富国強兵路線で生き延びた。

 後継の胡錦濤政権は当初、「調和のとれた社会の構築」や「対外平和発展」を唱えて、国内の格差是正や対日関係の改善をめざした。しかし江政権期に根を張った既得権益層や軍部の抵抗にも阻まれ、完全な「かけ声倒れ」に終わった。

 ここで登場した習近平体制には2つの道があった。1つは胡政権が先送りした国内の政治・経済改革に正面から取り組むことで国内矛盾を解消し、外に向けては平和外交を展開することだ。もう1つは江政権の民族主義・富国強兵路線への回帰である。習総書記が後者を選択したことは明らかだろう。

 真の改革を進めるには、(1)特権層の既得権益体制を打破する(2)天文学的規模の腐敗を根治して、所得分配の公平、公正化を進める(3)言論・報道の自由を保障して権力を監視し、真の民主と法治の社会を構築する-などが最低要件だ。

 だが習氏は幹部の腐敗絶滅には「党が党を厳しく管理せよ」(11月15日会見)と説く。冗談ではない。結党90年たってもそれができないから、党外に腐敗を監視する機関を設ける必要性が叫ばれているわけだ。

 「法による統治と執政」を唱える一方、「法の制定と執行は党の指導下で進める」と強調している(12月4日演説)。共産党が法の制定と執行の権力を独占して「法の下での万人の平等」が保障できるわけがあるまい。習氏の法治の本質は「党治(党による統治)」に他ならない。

 国内外向けの発言のズレも気になる。5日の外国人専門家グループとの会見で「中国は決して他国を脅かさず、対外拡張しない」と述べた。ところが同日の戦略ミサイル部隊との会見では同部隊を「わが国の戦略的威嚇力の核心」と称揚している。

 民族主義を鼓吹する習体制の誕生と相前後して、尖閣諸島や南シナ海での中国海洋当局や軍の動きも一段と活発化している。日本の対応も待ったなしだ。


投稿日

カテゴリー:

投稿者: