【産経記事】偽善国家と訣別せよ

【産経記事】偽善国家と訣別せよ

2012.3.19 産経新聞

 国際社会に「善(よ)い」国などありはしない。「悪い」国に至っては数え切れないが、「偽善」となると絞られる。その代表格が日本である。とりわけ軍事となるとこの国は半ば無意識(?)に「善」を取り繕う。

 独立行政法人・宇宙航空研究開発機構(JAXA)設置法を改正し、宇宙開発を平和目的に限定する条文を事実上削除する法案が閣議決定された。これなどは偽善の典型だといえよう。

 現JAXA法は、職掌を宇宙開発・研究や人工衛星開発・打ち上げ-と規定するが、いずれも「平和目的に限る」と縛ってきた。それを安全保障分野における宇宙利用にまで広げることが改正の狙いだ。

 そもそも宇宙利用に関し主要国の趨勢(すうせい)は真逆だった。中国国防大学の教材「軍建設学」では、宇宙軍拡を視野に人工衛星や弾道ミサイルなどを応用する宇宙軍創設構想を2008年に明記した。宇宙兵養成や宇宙からレーザーや電波で攻撃する軍種の創設を計画しており、米軍に対抗して宇宙軍事大国化を目指す姿勢を明確にしたのだ。 

 驚くべき事に、この発想は「人民の海」という数を頼んだ歩兵中心主義に改革の兆しが芽生えた1980年代半ばから存在した。そして今、2020年の完成を目指し、宇宙ステーション建設計画が着々と進む。

 「軍建設学」は半面で、宇宙軍創設が国際軍事競争における「新しい戦略要衝を押さえる重要な取り組みとなる」と「制宇宙権」掌握に言及する。その目的を「新たな戦略空間での国家利益拡大と、それに伴う宇宙資源開発に有利な条件創出」と位置付けてもいる。

 確かに、宇宙には太陽エネルギーや鉱物など莫大(ばくだい)な資源が存在するが、宇宙資源獲得は長期目標であり、当面は副産物だとみるべきであろう。

 中国は07年、自国の老朽化した気象衛星を衛星攻撃兵器(ASAT)=この時は中距離弾道ミサイルを改造した固体ロケット=で破壊した。その後少なくとも4回、米地球観測衛星にサイバー攻撃を仕掛けるなど、あくまで米軍事衛星戦力を標的に据えている。米軍は軍事衛星の持つ「目」「耳」に頼るがゆえに、破壊されたり故障をきたせば、指揮命令系統が大混乱に陥るからだ。

 JAXA法改正は、こうした中国の宇宙軍拡や北朝鮮の弾道ミサイルをにらんでの措置だ。ミサイル防衛(MD)システムの精度アップに向け、光学機器や電波を使い画像情報を得る偵察衛星や、3万6000キロ上空の静止軌道から赤外線センサーで熱源を捉え、ミサイル発射を確認する早期警戒衛星-の性能向上・開発が期待される。  

 JAXAは平成15年に既存3組織を統合し、宇宙航空分野の基礎研究から開発・利用に至るまで一貫して行える組織に改編された。その時点で防衛庁(当時)を絡めなかった異常性はわが国の安全保障への立ち位置を証明する。わが国が「平和目的に限る」と自己陶酔気味に宣言しても諸外国は「おバカさん」とほくそ笑むだけである。

 それを今ごろになって中国などの宇宙軍拡に慌て「平和目的条項」を削る。その無様(ぶざま)は、すべての外国に「偽善」を披瀝(ひれき)し、逆に警戒感を呼び覚ますだけではないか。

 そもそも「軍事」「民生」の線引き自体が実に愚かしい。インターネットやカーナビはつとに知られているが、天気予報や電子レンジも先端軍事研究から派生した産物である。

 日本が演ずる「偽善」はこれだけではない。軍用の空中警戒管制機(AWACS)の製造過程に至ってはビョーキに近い。この機種の胴体は米国製旅客機と同型で日本で製造したが、当時の通商産業省が武器輸出三原則を盾に「旅客機にある窓がない」と待ったを掛けたため窓枠を開けて逆輸出し、米国で埋め戻した。

 その一方、最先端兵器製造に不可欠なコンピューターソフト・ハードや、ステルス性能を左右する繊維素材を垂れ流す無警戒ぶりにはあきれるほかない。

 NATO(北大西洋条約機構)が進める次世代艦対空ミサイル・コンソーシアムの共同開発国には、ノルウェー、デンマーク、カナダ、スペイン、オーストラリアなど多くの日本人が“甘美”なイメージを抱く国家が名を連ねる。わが国を「軍国主義」呼ばわりする韓国は、世界を舞台に戦車や潜水艦を売りまくる有数の兵器輸出国である。

 武器輸出三原則緩和を機に、日本も国益を見据(す)え、「偽善」と訣別(けつべつ)しようではないか。


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