【映画評】日本人が知るべき歴史を描いた「台湾アイデンティティー」

【映画評】 日本人が知るべき歴史を描いた「台湾アイデンティティー」 

                    山田 智美(國民新聞記者)

【國民新聞:平成25年6月25日発行 第19185号】

 劇場ロングラン・ヒットを記録した前作「台湾人生」に続く酒井充子監督のドキュメン
タリー映画第2弾、「台湾アイデンティティー」がこの初夏公開される。今作では6人の人
物が登場する。

 台湾原住民族、ツオウ族の高菊花さんはエリートの父親を蒋介石の白色テロで処刑さ
れ、自身も長年に亙って執拗な尋問を受け続けてきた。一家を支えるため歌手となった高
菊花さんは、酒席で国民党兵士の口から父の最期を聞く。彼女の叔父の鄭茂李さんは海軍
志願兵となった。冗談好きでおどけた鄭さんが、「もし日本が負けなかったら、私たちの
ような日本のために働いた者を日本はきっと可愛がってくれたでしょう」と涙で語る時、
ユーモアの奥に秘められた深い悲しみを感じる。

 台湾少年工として神奈川県の高座海軍工廠で働き、挺身隊員だった妻を連れて戦後台湾
に戻り、小学校教員を務めた黄茂己さんも登場する。国民党に入党しなかったため校長に
はなれなかったが、「本当の民主主義とは何か」を子供たちに伝え続けた。

 日本兵として終戦を迎えたインドネシアに残り、同志とともにインドネシア独立運動を
戦った宮原永治さん。戒厳令下の台湾には一度だけしか戻ることなく、インドネシア人に
帰化し「自分はインドネシア人」と語る。

 東京の中学に進学した呉正男さんは航空通信士として現在の北朝鮮で敗戦を迎え、シベ
リア抑留を体験し日本へ戻る。横浜華銀勤務を経て華僑界で活躍する呉氏が帰化申請をし
ない理由とは……。

 台湾人の父と日本人の母をもつ張幹男さんは台湾独立派の日本語冊子を翻訳しようとし
て「反乱罪」で逮捕され、緑島に8年間収監された。今なお、その秋が来たら台湾のために
闘うと言う。

 戦後、日本人が長い間知ることのなかった彼らの体験は、台湾の歴史であると同時にま
た日本人が知るべき歴史である。高校生、大学生のお孫さんと一緒に観に行かれることを
お勧めする。

 7月6日から都内・ポレポレ東中野(電話03-3371-0088)でロードショー。

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