在日台湾同郷会副会長 王 紹英
11月7日、中華民国総統馬英九と中華人民共和国総書記習近平がシンガポールで仲良く会見できた。歴史的な出来事だ、と中国人が喜んでいる。要するにこの会見で台湾の歴史が変わる、平たく言えば、台湾が統一に向かって一歩前へ進んだ、と考えているらしい。
中国人が歓喜の声を上げている反面、多くの台湾本土派の志士が憂慮を禁じ得ないそうだ。しかし、不謹慎だと自覚しながらも私は中国人と一緒に嬉しく思った。
馬英九が親中かつ無能でありながらも再選された。彼の学生スパイ・密告者の過去を知りながらも自分の指導者に推挙した台湾人の不可解な精神状態、もしくは知能を論じた文は既に多くあるのでここには恥ずかしくて触れないことにする。
馬英九の再選で台湾が風前の灯火だと考えたのは私だけではないははず。奸計に長けている中国人に愚直な本土派の連中はとっても太刀打ちできそうもないように見えた。中国人の五千年で培った「戦略思想」に台湾人は足下も及ばないだと諦めていた。内心は台湾さらばと思っていた。
しかし、去年3月18日の「ヒマワリ学生運動」で状況が一変した。国会議席の多数を占めていた中国国民党の「サービス貿易協定」強行採決を反対し、大学生が国会を占領した。この運動に点火されたかのように民進党が破竹の勢いで地方選挙に大勝した。
しかも「ヒマワリ学生運動」で多くのことは明らかになった。中国国民党政権は事前学生が国会を占領する動きの情報を全く掴んでいなかったのは明らかである。すなわち学生スパイは存在しないと言えないだが、既に機能不全になったと言える。
かつてこのような学生運動は起こりえなかった。台湾国内のみならず世界各国の大学に中国国民党の学生スパイが潜んで反体制の学生を密告していた。最も有名の学生スパイは現任の中華民国総統であることは言うまでもない。
「ヒマワリ学生運動」は学生が主体とはいえ、間違いなく全国民を基盤とした大規模な反中運動と言って間違いない。学生達は二十歳前後、彼らの親達はおそらく五十歳前後実年の連中である。すなわち、台湾経済の大黒柱であり、社会の主流である。おそらく彼らは心配しながらも自分のかわいい子供を止めなかった。子供がその場殺されることはない、何処かに連れ去れ、消されることもない、反体制運動のため将来が浮かばないことはないと確信したと思われる。台湾社会が既に中国国民党を恐れていないことは火を見るより明らかである。
白色恐怖の時代、中国国民党が台湾人を制したのは文化でもない、文明でもない、中華料理でもない、流暢な中国語でもない。台湾人を圧制したのは独裁政権共通の手段、恐怖と金銭である。
女子高生の不満でさえ反逆罪にされる残虐さと横暴は、てきめんでした。中国国民党の戒厳令と警備司令部で台湾人を恐怖のどん底に落とし、多くの台湾人が独裁政権の横暴に加担しないものの目をそらした。
1947年の228事件以来の深く台湾人の意識に植え付けられた中国国民党への恐怖は李登輝総統の民主改革で薄められ、「318ヒマワリ学生運動」で一掃された。
中国国民党の恐怖統治が破たんした昨今、自分の双子の中国共産党の残忍さを新たな恐怖のネタとして持ち出した。中国共産党の台湾侵攻、「血洗台湾」の恐怖である。
馬習会に強調された台湾が中国の属する捏造の「九二共識」が台湾人を再び恐怖を味わってほしいネタである。台湾人がこの「九二共識」を受け入れれば(要するに降伏)、平和だ、受け入れなければ、侵攻だ。まあ、明快と言えば、明快だが、何処か思考回路が単純すぎ、芸がないと思われる。折角の中国人が戦略に長けている噂も台無しにされたような気がする。
既に台湾全国を充満している反中・嫌中の空気が馬習会でガス抜きにされるはずはない。馬英九が中国に近づければ近づくほど台湾人の反中情緒は高揚する、中国人が台湾人を恫喝すればするほど台湾人の嫌中の炎が一層燃え上がるのは従来の方程式であった。来年の総選挙で中国国民党が廃滅的な運命を辿るに違いない、と有り難く思っている。
馬英九が政治闘争の確かに上手と褒めてあげたいが、今から顧みると台湾を中国に統一されるよう一連の親中政策は意外に非戦略的であり、幼稚であった。8年間統一への努力が台無しになり、残したのは台湾人一層の嫌中感情と本土派の再蹶起であった。
台湾人は愚直ですが、中国人も意外に単純ではないか、と思わざるを得ない。謀略的で戦略的の中国人のイメージが跡形もなく風船のように萎んだ、残されたのが嘘つきで破廉恥の中国人のイメージだった。残念だった。
中国人が捏ち上げた「九二共識」を守る台湾本土派がいるであろうか。李登輝総統が著書の中に「九二共識」は中国人の捏ち上げとはっきりと書いている。いくら本土派は愚直とは言え、こんな幼稚で単純すぎる陰謀に落ちるはずがない。
台湾を攻めるなり、台湾人を怖らせるなり、もっと勉強し、もっと「戦略的」に考えなければいけない、と老婆心で中国人の耳元に囁いてあげたい。