【12月14日 西日本新聞】
師走のこの時期に、福岡市のシネテリエ天神が「台湾シネマ・コレクション2008」を
やる。12月20日から26日までの1週間で8作品を上映する。ということは、1作品につき
1、2日の上映、しかも時間を区切って1日2作品上映という集中豪雨型の台湾映画祭な
のだ。必然的に見たい映画を事前に厳選して、時間厳守で上映に臨まなければならない。
気軽にふらっと、というわけにはいかないのだ。しかし、心配することなかれ。どれもこ
れも粒ぞろいの作品ばかり、というわけでもないからだ。ぶっちゃけ、見てもしょうがね
ぇんじゃねぇの、というのもある。そんな、さながら福袋のように玉石混交のシネコレの
なかで、この「ビバ!監督人生!!」はじつに面白かったのだ。
軽薄なドラマばかりを撮っている映画監督が、政治と社会の腐敗を告発する「モキュメ
ンタリー」映画を撮ろうと思い立つ。モキュメンタリーとは、ようするに偽物のドキュメ
ンタリーのこと。が、主演俳優には逃げられ、資金繰りには行き詰まる。おまけにこの男、
口ばかり達者だが、とことん軽佻(けいちょう)浮薄、酒をかっくらっては悪態をつきま
くり、女には見境なく手を出すどうしようもないモラトリアム人間、大きな赤ん坊なのだ。
本当は政治に興味なんかてんでなく、やることなすこと軽薄な自我の裏返しでしかないこ
とに気づきもせず、大まじめに社会派の映画をつくろうとするその姿が笑いを誘う。
だけど、それだけならただのコメディーだ。見えっ張りで、癇癪(かんしゃく)持ちで、
裏目つづきのこの40男の滑稽(こっけい)な奮闘の先にあるもの、それは人間の幸せと不
幸せを真剣に見つめた、ひとつのちっぽけで、共感を覚えずにはいられない、等身大の悟
り。
9月に台湾に帰ったときに大ヒット上映中だった「海角七号」(つぎの台湾シネコレに
入ること間違いなし)よりも、俺はこの「ビバ―」のほうが断然好きやね。悲しいのは、
上映が12月20日の1日かぎりだということ。みんな、チャンスは1日こっきりだぞ。
(作家、福岡県在住)
■「台湾シネマ・コレクション2008」上映スケジュール
http://www.yu-raku.co.jp/cineterrie/schedule.html
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