党立法委員の絡む刑事訴訟で法務部長(法相)らに上訴断念を違法に働き掛けた「司法介
入」だとして、馬英九総統は9月10日、唐突に辞任を要求、与党の中国国民党は翌11日に党
籍を剥奪した。
王院長は比例代表選出のため、国民党籍を失えば立法委員を失職、立法院長の地位も失
うことになる。そこで台北地裁に地位保全を求める仮処分申請を行い、13日、台北地裁は
仮処分申請を認めたため、当面は党籍とともに立法院長職にも留まることになった。
いったい何が起こったのだろう。求心力を失った指導者が邪魔者を排除する挙に出たと
いうことか。それも「違法電話盗聴」まで明らかにして。盗聴行為を正当化してまで王院
長を引きずり落とさなければならない切迫した事情があったのだろうが、馬総統の「専
横」極まれりの感がある。
世論がそれを証明した。13%に過ぎなかった馬総統の支持率が11%まで落ちた。また、
馬総統を最前線で擁護していた側近の羅智強・総統府副秘書長が12日、「家庭の事情」を
理由に辞任した。
馬英九総統はなぜ王金平院長に辞任を要求し党籍まで剥奪したのか、下記に宮崎正弘氏
の分析をご紹介したい。台湾政界の混乱を中国がどう見ているのか気にはなる。
台湾政界も「政変」。王金平国会議長に馬総統が辞職を要求
王議長は「仮処分」申請で対応。行政訴訟法298条を根拠に
【宮崎正弘の国際ニュース・早読み:平成25(2013)年9月13日】
前代未聞の大混乱に台湾政界が陥没している。
なにしろ支持率11%しかない馬英九総統、議論をすりかえる為だろうが、王金平国会議
長を引きずり下ろすという挙にでた。これを「減王計画」というそうな。
王金平は台湾政界有数の実力者にして、本省人政治家。マフィアとの繋がりを指摘する
向きも多いが、国民的な人気が高く、ファンも多い。李登輝元総統との関係も良い。
具体的には9月10日、馬英九総統が「王金平議長の辞任を要求」したことに端を発し、そ
の理由を「不当な司法介入」とした。国民党は、この動きを受けて、9月11日に王金平の党
籍抹消処分をはやばやと決めた。
マレーシアから急遽帰国した王議長は司法介入の疑惑を否定し、むしろ捜査当局の電話
盗聴を問題視した。また「仮処分」申請で対応することにして、行政訴訟法298条を根拠に
「暫時権利保護」の仮処分を求めている。
ところが香港紙『明報』(9月13日付け)によれば、台湾国民党のなかの「新四大家族」
が結集し、逆に馬下ろしに動き出しているという。
台湾の「新四大家族」とは連戦・国民党名誉主席(元副総統)、呉伯雄・国民党名誉主
席、●龍斌・台北市長(閣僚級)、朱立倫(新北市長、閣僚級)の四大有力派閥の領袖た
ちである。
新四大家族は「26連隊」という暗号名の作戦を準備中で、同明報にしたがうと「2014年
末の五大市長選(台北、新北、台中、台南、高雄)で国民党が敗北するとして、その責任
を馬に取らせ、任期半ばで総統から引きずりおろす」作戦だという。関係者はいずれも、
この明報の報道を否定している。
一方、当事者の王金平は記者団に対して「辞職しない。党を離れない。新党を組織しな
い。馬下ろしには加わらない」という四つのNOを打ち上げた。
一般世論の反応は、むしろ王金平に同情的で、国民党員でありながらも本省人の王が、
国会(立法院)でしばしば国民党提案の法律を成立させないため、馬が苛立ち、邪魔者を
排除しようとする権力闘争が本質であり、馬英九の陰険な遣り方、その政治的な動きを支
持できないとする意見が強いという。
(註:文中の●は赤におおざと)