府の発表では「双方はいかなる協定にも調印せず、共同声明も発表しない」としている。あくまで
も「両岸の平和を強化し、台湾海峡の現状を維持する」と強調している。しかし、強調すればする
ほどキナ臭さが漂ってくる。
馬総統の終極の目的は「台湾と中国の統一」にある。悲願と言ってもよい。ましてや、中国に
とって絶対譲れない核心的利益の第一は台湾であり、「台湾統一」は中国の夢であり悲願でもあ
る。馬英九と習近平の願うところは寸分も違わない。同じ「夢」を抱いている。
来年1月16日に実施される総統選挙と立法委員選挙のW選挙で、中国国民党は昨年11月29日の統
一地方選挙に続く歴史的大敗がほぼ確実視されている。
中国国民党の朱立倫候補が勝つ見込みは万が一もない。政権交代はほぼ確実と予想されている。
しかし、総統就任式は5月20日。選挙の投開票から総統就任式まで4ヵ月もある。この「魔の4ヵ
月」、総統の馬英九は拱手傍観しているのだろうか。
ジャーナリストの迫田勝敏氏は「世界一の金持ち政党といわれる国民党の党資産は馬が握り、総
統退任後の影響力維持のために使い方を決めるだろう。馬はまだレイムダックにはなってない」と
警告している。
また李登輝元総統も、このW選挙で国民党が大敗すると予測し、馬英九が台湾と中国の「和平協
商」(平和条約)の締結にとどまらず「大陸の人民解放軍に台湾を攻撃させることすらあり得る」
とさえ指摘しているのだ。
いよいよ馬英九氏は、総統退任後の影響力維持のため、終極統一の「夢」実現に向かって動き出
したと疑わざるを得ない。
馬・習会談の報に接し、林建良氏は本日(11月4日)のメルマガ「台湾の声」で「馬英九は退任
後の自分を救うために台湾を中国に売り渡すかと疑わざるを得ない」と警告を発するとともに「こ
の密室作業で決まった会談は正当性のないものであり、台湾人はこの会談のいかなる結果をも拒否
しなければならない」と呼び掛けた。同感である。
ところで、この会談について、下記に紹介する中央通信社は「1949年に中国国民党が中国共産党
との内戦に敗れ、中国大陸から台湾に渡って以来初めて」と報じた。これは事実だ。しかし、見出
しは「台湾・中国大陸分断後初」としていた。日本メディアも「1949年の中台分断後初」と報じて
いる。
しかし、分断というなら、戦後、台湾と中国が一緒に統治されていたという事実がなければなら
ない。果たしてそういう事実はあったのだろうか。
蒋介石率いる中華民国と毛沢東率いる中華人民共和国という「2つの中国」が分裂した事実はあ
る。その中華民国が中国共産党の内戦に敗れて台湾に逃げ、台湾を占領していた事実はある。しか
し、領土として統治した事実はない。日本が台湾を中国(中華民国)に返還した事実がないから
だ。ましてや、中華人民共和国が台湾を統治した事実はない。
台湾は戦後も日本の統治下にあった。台湾の領土主権は日本にあった。1945年以来、中華民国も
中華人民共和国も、台湾を領土とした事実はない。だから日本は、1951年9月に署名したサンフラ
ンシスコ講和条約で台湾を放棄できたのである。
それにもかかわらず、メディアは歴史を無視して「中台分断」と書く。明らかなミスリードと
言ってよい。
馬英九総統、シンガポールで習近平氏と面会へ 台湾・中国大陸分断後初
【中央通信社:2015年11月4日】
(台北 4日 中央社)馬英九総統は7日、シンガポールで中国大陸の習近平氏と面会することが3
日、分かった。政府関係筋が同日夜明らかにした。
両岸(台湾・中国大陸)の最高指導者が顔を合わせるのは、1949年に中国国民党が中国共産党と
の内戦に敗れ、中国大陸から台湾に渡って以来初めて。政府関係筋によると、馬総統と習氏は両岸
の平和増進や台湾海峡の現状維持などについて意見交換するが、取り決めの締結や共同声明の発表
はないという。
また、国会や野党に理解を求めようと、毛治国・行政院長(首相)と曽永権・総統府秘書長は4
日午前、王金平・立法院長(国会議長)や野党議員に報告と説明を行う。
習氏とのトップ会談をめぐり、馬政権は「APEC(アジア太平洋経済協力)の場が最適だ」として
2013年から可能性を模索してきたが、これまでに実現することはなかった。
(李淑華/編集:羅友辰)