増えてきている。
その中で東京新聞の迫田勝敏(さこだ・かつとし)記者の報道が目を引いた。台北支局
長や論説委員を経て、台湾の大学で日本語を教えるため永住覚悟で台湾に住み始めた迫田
氏の経験と取材力による選挙分析は、台湾独特の選挙事情をよく伝えているのではないだ
ろうか。
人気票の蔡英文氏か組織票の馬英九氏か、「脚力」で勝る馬氏だが、「子豚貯金箱」が
人気の蔡氏の上潮ムードがあと1ヵ月続くか──。投票行動に影響を与えかねない「中国の
影」とネガティブ・キャンペーンも忘れてはならないと迫田氏は指摘する。
馬総統 再選に黄信号 台湾総統選挙まで1カ月
【東京新聞:2011年12月14日】
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2011121402000029.html
写真:民進党の子豚の貯金箱回収集会=迫田勝敏撮影
あと1カ月に迫った台湾の総統選挙(来年1月14日)で、国民党の現職・馬英九総統(61)
の再選に黄信号が点滅している。女性初の総統を目指す野党・民進党の蔡英文主席(55)
が猛追し、互角の戦い。政権交代の可能性も出ている。馬総統の支持基盤は、与党系・親
民党の宋楚瑜主席(69)に侵食される構図にもなっている。ただ、今回は立法院(国会に
相当)との初のダブル選挙でもあり、票の動きは複雑。中国の動向など、不透明な要素も
まだ多い。
(台北・迫田勝敏)
●世論味方に
10日の台北、総統府前。早朝から万を超す民進党の支持者が手に子豚の貯金箱を持って
詰め掛けた。「子豚の里帰り」と銘打ったイベント。民進党が配った貯金箱に支持者が小
銭をぎっしり詰めて持参し、献金した。
発端は、蔡氏が地方遊説で子供から子豚の貯金箱を寄付された出来事。蔡氏は監察院に
「子供の献金は違法」と注意され、すぐに貯金箱を返却したが、支持者らは当局の妨害だ
として反発。逆に、子豚の貯金箱を集めて巨額な資産を持つ「大怪獣」(国民党)に対抗
しようと発案した。
貯金箱の「里帰り」は高雄などでも企画され、この日だけで7万箱が集まったという。「こ
れは一種の社会運動だ」と蔡氏。監察院の介入が当局批判に火を付けた形で、一部の世論
調査では蔡氏が馬氏を逆転する情勢が表れている。
●第3の候補
馬氏の支持率低下は宋氏の出馬も一因だ。宋氏は2000年の総統選挙では国民党を割って
出馬、国民党の連戦候補を大きく上回る票を獲得したが、僅差で民進党の陳水扁氏に敗れ
た。今は当時の実力はないといわれる。
それでも立候補したのはなぜか。「行政院長(首相に相当)のポスト狙い」「立法院で
10以上の議席を求めている」などの見方が流れた末、「選挙直前には国民党と取引して立
候補を辞退する」との臆測まで広がった。だが、宋氏は「最後まで戦う」と断言。3候補の
テレビ討論会でも馬氏に批判を浴びせた。
世論調査では宋氏の支持率は10%前後。宋氏の政策論は、対中関係で「いずれは統一」
と明言するなど馬氏の考えに近いとされ、宋氏が選挙戦を完遂すると、蔡氏より馬氏の方
が影響を受けやすいとみられる。ただ、馬氏も蔡氏も得票が過半数に達しない可能性も強
い。
●脚力の勝負
上げ潮の蔡氏だが、組織力では国民党が上回る。台湾では最前線で票集めをする運動員
を「椿脚」と呼ぶ。その多くは末端自治組織「里」の選挙で選ばれる里長ら。台北市など5
つの直轄市の里長3757人のうち国民党は32%。民進党は6%弱しかいない。6割強の無所属
の多くも国民党系。ダブル選挙となれば椿脚の「脚力」の勝負にもなる。
台湾の選挙には、中国の影が常に付きまとう。中国には台湾人ビジネスマン(台商)ら
がおよそ100万人滞在しているともいわれる。中国との取引などで利益を得ている台商らが
一斉に台湾に戻って投票すれば、対中政策を焦点とした“組織票”にもなり得る。中国は
公式には「不介入」「ノーコメント」としており、つい最近、台湾の地方組織代表を上海
に招いたと伝えられたが、中国政府側は関与を否定した。
台湾では、対立候補にぬれぎぬを着せる「抹黒(モーヘイ)」、汚い手段を使う「奥歩
(アオポ)」なども、よくある戦術。2004年の総統選挙では、投票前日に与党候補が撃た
れた。今回も選挙戦中に特定候補の醜聞が暴露されるなどして、投票行動に影響が及ぶ可
能性がある。