もっとも大きくなった時刻だった。
台湾の人々は満月が大好きだ。新年最初の満月をめでる旧暦1月15日の「元宵節」を祝日
とし、旧暦8月15日のこの日も「中秋節」の祝日としている。今年は20日も臨時休日とし、
木曜日から日曜日までの4連休とした。
台湾ではなぜか、中秋節の夜は戸外で焼肉パーティを開く。流行っているというより、
すでに習慣になっていると言ってよい。日本のバレンタインデーのチョコレートのよう
な、台湾の焼肉。
ところが、連休初日の中秋節のこの日、台湾は国際名を「ウサギ」という台風19号の影
響で空には雲がかかり、大風も吹く残念な夜となり、名月を愛でることは難しい状況だっ
た。もちろん、戸外での焼肉もできない。しかし、台湾の人々はたくましい。台北市内で
は夜になって一時的に雨が上がったことから、戸外に出て焼肉パーティを開く人々が続出
したという。「サーチナ」ニュースがそのたくましさぶりを伝えているのでご紹介したい。
雨にも負けず、風にも負けず、中秋節にはバーベキュー=台湾
【サーチナ:2013年9月20日】
9月19日は旧暦8月15日。秋の名月を愛(め)でることができる「中秋節」だ。中華圏で
は伝統的に、家族と、場合によっては恋人と一緒に「月餅」を食べる習慣があるが、台湾
ではバーベキューを楽しむ習慣が定着している。ところが折悪しく、台風19号が接近して
きた。しかし台湾人は、簡単にはめげない。人々は「なにがなんでもバーベキュー」と、
早くから川沿いの公園の橋の下に繰り出した。炭火をおこして肉を焼いた。
中秋節に月餅を食べる習慣は唐代(618−907年)には発生していたとされる。気候のよ
い秋に家族や恋人と真円の月を愛でながら丸い月餅を食べることは、円が完全な形とみな
されることから「この縁を全うする。いつまでも仲良く一緒にいる」ことに通じると解釈
されてきた。
1000年以上伝統に新たな習慣がつけ加わったのが台湾だ。中秋節に家族や親しい友人と
バーベキューを楽しむことが、現在では完全に定着している。台湾ではバーベキューがB
BQ(ビー・ビー・キュー)と表記されることが多く、中秋節が近づくと「今年のBBQ
傾向」を伝える記事も増える。
中秋節にバーベキューを楽しむようになった理由についての確定した説はないが、有力
視されているのは、台湾の醤油メーカー「満家香」が1967年に放送したテレビ広告だ。同
社は中秋節を迎えるにあたり、自社名をもじった「一家〓肉,万家香(イーヂア・カオロ
ウ,ワンヂア・シァン=一家で焼肉、1万の家がかぐわしい)」というキャッチフレーズ
で、「中秋節には一家でバーベキューを楽しみましょう」と訴えた。ちなみに同社は醤油
だけでなく、焼肉のたれなどの調味料も販売している。(〓は火へんに「考」)
おおむね「満家香」のテレビ広告以降、台湾では中秋節にバーベキューを楽しむ習慣が
定着していったという。この説によれば、台湾で「中秋節のバーベキュー」は、「チョコ
レートメーカーによる販売促進活動が大きく寄与した」とされる、日本のバレンタインデ
ーと同様の経緯で広まったと言える。
今年(2013年)も、台湾の多くの人々が「さて、中秋節のバーベキューは、どのように
しようかな」と考えはじめた矢先、ショッキングな情報が飛び込んできた。折悪く大型の
台風19号が台湾に接近しつつあり、中秋節ごろには天気が大荒れになる可能性があるとの
天気予報が発表されたのだ。
頭の中はすでに、「中秋節=BBQ」とインプットされている。肉の焼ける音や香り、
かみしめた時ににじみ出る肉汁。もはや我慢することは不可能だ。人々は、「悪天候で中
秋の名月を楽しむことができないのは仕方ないにせよ、バーベキューだけはなんとかなら
ないか」と考えることになった。
人々の気持ちは切迫していた。一方で、台北市で市当局が市内の川沿いの公園11カ所を
「バーベキューOK」の場所として開放していた。
台湾では中秋節の19日(木曜日)からの4日間が連休となったが、人々は18日午後からバ
ーベキューOKの公園に集まりはじめた。台風による悪天候でもなんとかなると、目指し
たのは橋の下だった。夜になると、橋の下はバーベキューをする人で「満員状態」になっ
た。
橋の下なので照明はほの暗い。それぞれのグループで、懐中電灯を手にする“照明担
当”や調理の責任者である“焼肉奉行”などの各部門の長(おさ)がそれぞれ、「中秋節
の焼肉セレモニー」における任務を遂行した。
立ち上る香りは時おりの強風で、たちどころに流されていってしまったが、それでも
人々は「恒例の秋の行事」を堪能することができた。
なお、台北市内では19日、夕方まで強い雨が断続的に降り続いたが夜には雨がやんだた
め、「橋の下」まで出かけなかった人も、自宅近くなどで「今なら大丈夫。それっ」とば
かりに、「中秋節のバーベキュー・パーティー」を楽しんだという。
一方、すでに詰めかけた人で混雑していた橋の下では突然、ウサギの格好をした人、さ
らに「セクシーなミニスカート姿」の若い女性が“乱入”してきた。清掃を目的とする学
生のボランティア隊だった。中国では月についてさまざまな言い伝えがあるが、その中で
もウサギと、月にいるとされる仙女の「嫦娥」を模したものらしかった。
学生らは「地面に散らかしたのでは、嫦娥に笑われてしまいますよ」などと言って、ご
みを回収してまわった。悪天候にたたられ、ずいぶんと窮屈な「中秋節のお楽しみ」では
あったが、若者らの献身的な姿は、橋の下では眺めることのできない月の輝きが差し込ん
だようだったという。
(編集担当:如月隼人)