言っても過言ではない。
李登輝氏が総統時代に取り組んだ教育改革の一環として、1997年(平成9年)に中学生用教科書
のサブテキストとして刊行した『認識台湾』(歴史編)に八田與一が登場し、最近では魏徳聖氏が
プロデュースした映画「KANO」でも八田を登場させている。
毎年5月8日の八田の命日には烏山頭ダムの畔に建つ銅像とお墓の前で追悼式が行われ、すでに今
年で73回を迎えている。この追悼式には、反日と言われている総統の馬英九氏も参列したことがあ
り、八田與一記念公園をも建設している。
李登輝元総統が講演や論考で繰り返して八田の功績を取り上げられたことなどが奏功し、日本で
もようやく八田の名前が浸透してきた。
中学校の歴史教科書(育鵬社、自由社)にも掲載されるようになり、本年2月に刊行された大学
生用の英語教科書『Japan Innovation―ジャパン イノベーション』でも取り上げられている。
最近は道徳教育をめぐる論議が活発化していて、ここでも八田與一がからんできている。
道徳教育をすすめる有識者の会(渡部昇一・代表世話人)の編著による『はじめての道徳教科
書』(育鵬社、2013年11月)では、やなせたかし、夏目漱石、松井秀喜、佐藤真海、中江藤樹など
とともに八田與一を取り上げた。
また、育鵬社はその翌年11月に刊行した貝塚茂樹・柳沼良太編『学校で学びたい日本の偉人』
で、小学生が学びたい日本の偉人の一人として6人の日本人を取り上げ、中江藤樹、杉原千畝、田
中正造、野口英世、二宮尊徳とともに八田與一を紹介している。
さらに、育鵬社は今年7月1日に発売した渡部昇一監修、丸岡慎弥著の『日本の心は銅像にあっ
た』でも、銅像になった日本の偉人25人の一人として八田與一を紹介している。
25人は、古代・中世編(紫式部や楠木正成ら3人)、戦国編(加藤清正や長宗我部元親ら3人)、
近世編(伊達政宗や二宮金次郎ら8人)、近現代編(明治天皇や勝海舟、特攻隊など9人)、そして
最後の海外編で、八田與一が遠山正瑛(中国に植林を続けた功績で、中国政府が建てた日本人の銅
像)とともに紹介されている。
いずれも6ページから8ページを使い、最初のページにその人物の銅像写真を掲げ、次ページに簡
単なプロフィールと銅像が建っている地図を掲載、その後に本文が続く構成となっていてたいへん
読みやすい。
驚いたのは、八田を除く24人は最初のページの銅像写真だけだが、八田のみは本文でも写真が使
われていることだ。その写真は、八田外代樹(はった・とよき)夫人の銅像だった。
周知のように、外代樹夫人がお子さんを抱いた銅像は2013年9月1日に除幕式が行われている。思
いを巡らしてみれば、夫と妻の銅像が別々に造られた偉人はいないかもしれない。台湾の人々が八
田與一のみならず夫人をも敬愛していたという証左であろう。それを汲んで取り上げた著者の周到
さに敬意を表したい。
なお、戦後、台湾に逃げ込んで占領した蔣介石は、自らの銅像を台湾の隅々にまで建てて偶像崇
拝教育を徹底した。後藤新平や児玉源太郎の銅像を撤去し、その台座にまで自らの銅像を建てて
行った。台湾では現在、蒋介石が独裁した白色テロ時代に反発し、高校生までが蒋介石の銅像を倒
したり、その頭に袋をかぶせたりしている。
奇美実業創業者の許文龍氏が台湾の発展に尽くした後藤新平や新渡戸稲造など日本人9人の胸像
を制作して顕彰したように、銅像は人々から尊敬を受けているから建てられる。
本書を監修した渡部昇一氏は本書の前書きで「銅像には、しぐさや向いている方向、建てられた
場所など細部にわたり多くの人々の想いが込められていますので、子供だけではなく全ての日本人
に大切なことを思い出させてくれる」と述べているように、多くの人々がその人物を顕彰するため
に造るのが銅像であり、その人物を通して大切なことを思い出させるのが本来の銅像だ。
恐怖心や思い出したくない歴史を思い出させるのが銅像ではない。だから、世界中どこでも独裁
者の銅像は倒されるのだ。
下記に本書の概要と著者のプロフィールを紹介しておきたい。
◇ ◇ ◇
・書 名:日本の心は銅像にあった ISBN:978-4-594-07280-3
・監修者:渡部昇一(上智大学名誉教授)
・著 者:丸岡慎弥(銅像教育研究会代表)
・体 裁:四六判、並製・224ページ
・定 価:本体1300円+税
・発 行:育鵬社
・発 売:扶桑社
・発売日:平成27年7月1日
http://www.ikuhosha.co.jp/public/introduction07280.html
丸岡慎弥(まるおか・しんや)
銅像教育研究会代表、教育サークルREDS大阪代表、大阪市の公立小学校教諭。昭和58(1983)年神
奈川県で生まれる。幼少より兵庫県、三重県で過ごす。皇學館大学文学部教育学科卒業。その後、
大阪市内の公立小学校に勤務し、銅像を切り口とした偉人教育、道徳教育で子供達に生き方を伝え
続けている。