海上自衛隊と海保が連携するための初の運用指針「統制要領」の概要が判明

 本誌でも何度か取り上げているように、有事に際して防衛大臣が海上保安庁を統制下に置くことは法的にできそうにない。

 自衛隊法第80条には「自衛隊の全部又は一部に対する出動命令があつた場合において、特別の必要があると認めるときは、海上保安庁の全部又は一部を防衛大臣の統制下に入れることができる」と定めているものの、海上保安庁法第25条には「この法律のいかなる規定も海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない」と定めているからだ。

 以前から、この矛盾と捉えられる法的問題を解決しなければ由々しき事態を招きかねないと指摘されてきた。

 衆議院外務委員会でも昨年(2022年)4月13日、この問題を和田有一朗・議員(維新)が質し、鬼木誠・防衛副大臣(当時)が「自衛隊法第80条と海上保安庁法第25条とは矛盾するものではない」と驚くべき答弁している。

 その理由は「重大な緊急事態において、自衛隊と海上保安庁との通常の協力関係では効果的かつ適切な対処が困難な場合に、防衛大臣が海上保安庁を統一的、一元的に指揮運用することを可能とするものでありまして、海上保安庁が実施し得る任務、権限に何らの変更を加えるものではない」からだという。

 では、海上保安庁は具体的にどのような行動をとるのかというと、鬼木副大臣は「統制下に入った海上保安庁は、海上保安庁法に規定された所掌事務の範囲内で、非軍事的性格を保ちつつ、自衛隊の出動目的を効果的に達成するために適切な役割分担を確保した上で、海上における人命の保護等を実施する」とも述べていた。

 その後、海保はどのようにして非軍事的な性格を保つのか、その施策が注目されていたところ、本日(4月10日)の読売新聞が「防衛相が海上保安庁を指揮下に置く手順などを定めた『統制要領』の概要がわかった」と報じている。下記に紹介したい。

 策定手続きは「国家安全保障戦略」など安保3文書をまとめた国家安全保障会議(NSC)で行っているという。

—————————————————————————————–防衛相が海保長官を指揮、有事の「統制要領」概要判明【読売新聞:2023年4月10日】https://www.yomiuri.co.jp/politics/20230410-OYT1T50006/

 有事の際、防衛相が海上保安庁を指揮下に置く手順などを定めた「統制要領」の概要がわかった。

 防衛相が海上保安庁長官を指揮し、海保が海上での捜索・救難や国民保護を担当することが柱となる。政府は今後、国家安全保障会議(NSC)で策定手続きを急ぐ方針だ。

 複数の政府関係者が明らかにした。統制要領は武力攻撃事態時などに、海上自衛隊と海保が連携するための初の運用指針となる。中国による台湾への武力侵攻が懸念されるなど、日本の安全保障環境が厳しさを増していることから、政府は海自と海保の協力強化が不可欠とみて、内容の調整を進めてきた。

 統制要領では、相手国がミサイルを発射するなど、軍事行動に出てきた場合、海自が防衛措置に専念し、海保は避難住民を輸送したり、民間船の安全を確保したりする後方支援を担うことを明確化する。

 防衛相が指揮する対象は海保組織そのものではなく、海保トップの長官に限定する。長官を通じ、自衛隊が持つ情報を切れ目なく、迅速に共有できるようにする狙いがある。海保の独立性を尊重し、実際の巡視船の運用などは、実務に精通している長官に委ねることを念頭に置いている。

 海保の軍隊としての機能を否定する海上保安庁法25条の考え方を維持するため、海保が軍とは異なる法執行機関であることも明記する方向だ。

 岸田首相は4日の衆院本会議で、「有事の際も、海保に軍事的任務を付与することは想定していない」との認識を示した。

 統制要領の内容を踏まえ、海自と海保は5月以降に武力攻撃事態を想定した初の共同訓練を実施する予定だ。これまでの海自と海保の訓練は、武力攻撃事態には至らない、自衛隊が治安維持などを担う海上警備行動の発令を想定したものにとどまっていた。

 昨年12月に改定した国家安全保障戦略では、海保について、能力の大幅強化や体制拡充が掲げられ、自衛隊との連携・協力も「有事の際の防衛相による統制を含め、不断に強化する」との考えが盛り込まれた。

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