日本統治時代の1932年9月16日、新竹州(現在の桃園市)に生を享けた鄭先生は台湾大学商学系を卒業後、華南銀行に奉職されましたが、1960年代より小説、80年代からは童話や絵本を精力的に発表されていました。
鄭先生の作品は当時の国民党政権下においての発表だったため、寓意に富んだ作品が多く、台湾の子供たちは自分たちの住む台湾をもっと知るべき、愛すべきと考え、台湾の歴史、人物、風土などを織り込んだ物語を創り出されました。日本でも『阿里山の神木』や『三本足の馬』『丘蟻一族』などが出版されています。
私どもが主催する日本李登輝学校台湾研修団(略称:李登輝学校研修団)でも、2004年10月の第1回から、故張炎憲先生(国史館館長)や故黄昭堂先生(総統府国策顧問)などとともに、台湾文学や台湾文化について何度もご講義いただきました。独裁政権の戒厳令下、「台湾文学」を確立させようと努められてきたことを淡々と話される姿に、本当に敬服しました。
参加者のなかに名前が同じ「清文」という方がいて、「ああ、同じですね。台湾と日本は近いんですよ」と言われたときの柔和な表情がとても印象的でした。
自由時報紙によりますと、告別式は11月25日(土)午後1時から、台北第一殯儀館において行われるとのことです。
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鄭清文(てい・せいぶん)先生1932年(昭和7年)9月16日、台湾・桃園生まれ。1958年、台湾大学法学部商学学科卒業、処女作を発表。1960年、華南銀行に就職。代表作に、長編小説では1965年『簸箕谷』、1970年『峡地』、1986年『大火』など。短編小説には1968年『故事』、1970年『校園裏的椰子樹』、1984年『最後的紳士』ほか多数。1992年、評論集『台湾文学の基點』、1993年、日本語訳『阿里山の神木』(『台湾の創作童話集』岡崎郁子訳、研文出版)、1968年、短編小説「門」で第4回「台湾文学奨」受賞。1987年、第10回「呉三連文芸奨」「小説奨」受賞。1993年、第16回時報文学奨「短編小説推薦奨」受賞。1999年、短編小説集『三本足の馬』(アメリカコロンビア大学出版社、英訳版。1984年、研文出版より日本語訳)。同年、台湾の中で文芸分野の最高名誉の「金鼎奨」受賞。1998年に華南銀行を定年退職後は台湾師範大学で「現代小説創作與賞析」を講義するなど精力的に活動。2017年11月4日、逝去。
—————————————————————————————–台湾の作家、鄭清文氏が死去 日本統治時代生まれ【共同通信:2017年11月5日】
鄭 清文氏(てい・せいぶん=台湾の作家)台湾メディアによると4日、台北市内の病院で心筋梗塞のため死去、85歳。
日本統治下の32年、現在の桃園市で生まれ、幼少期に日本語教育を受けた。台湾大学を卒業後、銀行に勤める傍ら、短編小説を中心に評論などでも活躍。社会性の強い作品が多く、日本統治下の台湾を題材にした小説「三本足の馬」や、「丘蟻一族」などは日本でも翻訳、出版された。