総統退任後、5度目の来日を果した李登輝元総統は帰台前日の9月9日、宿泊先のホテル
日航熊本において記者会見に臨まれた。
この記者会見には柚原正敬・日本李登輝友の会事務局長も参加、NHK「JAPANデ
ビュー」問題について質問した。
昨夜放送された日本文化チャンネル桜の大高未貴キャスター前田有一キャスターが担当
する「桜プロジェクト」に永山英樹・台湾研究フォーラム会長とともに出演した柚原事務
局長は、このNHK「JAPANデビュー」問題について李元総統に質すのは、李元総統
をこの問題に巻き込んでしまう恐れがあるので質問するかどうか迷っていたという。
しかし、台湾の日本語世代を象徴する人物であり、今回の来日では日台関係の重要性を
強調されていたことから、NHKの「JAPANデビュー・第1回『アジアの一等国』」
によって日本人が誤って台湾を見かねないおそれがあることに鑑み、勇をふるって質問し
たと話している。
柚原事務局長の質問に対し、李元総統は「制作者自体に非常に問題がある」として、20
年前に起きた「朝日サンゴ事件」という記事捏造事件を引き合いに、NHKのあの番組の
捏造性を指摘された。濱崎憲一というディレクターの名前こそ出さなかったが、「本当は
いい意味で話したのが、彼の説明になると曲解された形になってしまう」と、明らかに制
作責任者として、現場を取り仕切った濱崎ディレクターを非難したのだった。
台湾という日本国外において、総統という一国の元首経験者が20年も前の朝日サンゴ事
件を引き合いにNHK「JAPANデビュー」問題を捉えていたことに心底驚かされた。
その記憶力もさることながら、事の本質を見抜く眼力には敬服するばかりである。
そして、NHKは李登輝元総統の発言の重さを十分に噛みしめるべきであろう。これが
台湾の日本統治時代の歴史をもっともよく知り、『認識台湾』の発行を押し進めた台湾統
治者の見解なのである。
ここに、質問と応答の詳細をご紹介したい。映像は下記からご覧いただきたい。また朝
日サンゴ事件の詳細については、下記のサイトをご覧いただきたい。 (編集部)
■4/4【李登輝元総統】帰国前記者会見・NHK「JAPANデビュー」問題などについて[H21/9/14] http://www.youtube.com/watch?v=D83nPgC8pmw
■朝日珊瑚事件を語り継ぐサイト
http://asahilog.hp.infoseek.co.jp/
Q:柚原
日本李登輝友の会の柚原です。今回のご来日とは直接の関係はないのですが、日本では
NHKさんが放映した「JAPANデビュー」が問題となっています。そこで、台湾がた
いへん反日的な感じで日本を見ているという内容の放送があったのですが、もし総統がご
覧になっていて、あるいは、そのような情報をお聞きになっていましたら、どのようなご
感想を抱かれたのかなと思いまして。
A:李総統
柚原先生、この問題については、私は直接NHKの放送は見ておりません。ただ、外面
から得られた情報から見ると、実は制作者自体に非常に問題がある。それは、NHKの問
題であるか、あるいは制作者本人の非常に曲がった考え方──例えば、台湾にいろんな人
に会ってお話を聞いたりなんかして、本当はいい意味で話したのが、彼の説明になると曲
解された形になってしまう。これじゃ、いわゆる新聞記者(編集部注:放送人)としてあ
るべき態度ではないですね。
昔、こういうことが一つあった。私が覚えているのは、朝日新聞の新聞記者がいわゆる
環境保護、環境を大事にしなければならないということで、琉球島の海岸地帯においてサ
ンゴ礁を見たら、サンゴ礁に傷がいっぱいついとった。それが環境問題になって、ワイワ
イ新聞で騒いだ。ところが、誰がやったかというと、実は放送した(編集部注:記事を書
いた)本人がやったんだ(笑い)。そういうことが私の記憶ではおそらく10年くらいか
な……。(記者から「もっと前」の声)
そういうことがあるんだ。ものごとをこじつけて、単に、非常に間違った一面において
これを報道し、説明し、いかにも自分は非常に環境保護に熱心だと言っている。環境を保
護じゃなくて、破壊したのは本人じゃないか。それは、後で(編集部注:記事の捏造が)
発見して、とうとう首になっちゃったが、もう離れたでしょ、朝日新聞を離れた。
そういうようなストーリーが往々にしてよくあるんですよね。自分なりの信念とか、い
ろんな政治的な考え方を持っているかもしれないけど。そういう必要はありません、私は。