◆蔡英文政権「日米台同盟」への期待
李登輝元台湾総統が設立したシンクタンクのシンポジウムに、李登輝氏と蔡英文総統が揃って出
席しました。そこで蔡氏は、「李登輝時代は台湾の民主化の歴史の中で特別な意味を持つ」と李登
輝氏の功績を改めて強調し、「我々には当時とは異なる任務がある。新政府は『民主主義の深化』
というバトンを受け取り、進み続けていく」と述べました。
李登輝氏は現在93歳です。これまでも様々な病と戦いながら、総統を退いた後もご意見番として
台湾政権に影響を与え続けてきました。
総統時代(1988〜2000年)に台湾の民主化を推し進めた活躍は言うまでもないでしょう。特に、
教育の現場で使われていた中国寄りの歴史教科書を改定し、それまで一切触れられなかった台湾の
歴史についての教科書『認識台湾』をつくり、台湾の子供たちに中国ではなく台湾について学ばせ
たことは今でも語り草となっています。
『認識台湾』では「日本時代」に触れる部分もあり、台湾に教育を普及させたこと、衛生という
概念を台湾に定着させたことなどの紹介もありました。実際、日本が台湾を領有した当時の1899
(明治32)年、台湾の就学率は2.04%でした。それが日本統治終了の前年、1944(昭和19)年では
92.5%となっています。日本がいかに教育に力を入れていたかがこの数字からも明らかでしょう。
また、衛生を重視するという概念の普及によって、伝染病が予防され生活環境が整い、死亡率が
下がりました。
◆なぜ今「日台友好」を深める必要があるのか?
今年7月末、李登輝氏は石垣島を訪れ講演をしました。全国青年市長会の関係者や一般の入場者
ら約500人を前に、「地方から発信する日台交流の深化」と題する講演を行ったのです。
そのなかで李氏は、台湾と石垣島の農業交流の歴史をひもとき、今後はIoT(モノのインター
ネット)技術で経済協力すべきだと訴え、「アジアで最も民主化が進み、人権や平和を重んじる日
台は運命共同体だ」と強調しました。総統退任後、李氏が訪日したのはこれで8回目です。
李氏は、一貫して日台は軍事面、経済面などあらゆる面で協力すべきだと主張し続けています。
2015年9月、ジャーナリストの櫻井よしこ氏と対談し、中国が膨張し、アメリカの勢力が衰えてい
る今こそ、台湾が本当に頼るべきは日本だと再び強調しています。
22歳まで日本人として育った李登輝氏は、蒋経国時代、副総統として抜擢された理由を「正直で
真面目で日本人的だったから」と分析しています。
台湾での李氏の発言力は92歳となった今でも衰えておらず、8月に行われた講演会での登壇姿も
現役時代同様、毅然としています。
蔡政権については全面的に支持を表明し、「百点満点」と手放しで賞賛しています。
◆下がりつつある蔡英文政権の支持率
台湾人の持つ日本への感情は、世代によって変わってきています。いくら台湾が親日とはいえ、
今の若者世代は「多桑(トーサン)世代」(日本の統治時代を経験した世代)とはまた違う対日感
情を抱いています。
日台が変わらぬ友好関係を維持するためにも、李登輝氏の発言は大きく影響しています。日台が
李氏の発言をしっかりと受け止め、次代に受け継いでいくことが今の世代の責務であり、蔡政権や
安倍政権の役割でもあります。日台の変わらぬ友好は、これからの混沌とした国際社会で日台が生
き抜くためにも必要なものなのです。
蔡英文総統の支持率は、政権交替後100日たって若干下がっており、50%を割っています。選挙
前よりも支持率が下がった理由は、メディアではいろいろと言われていますが、改革を掲げながら
もなかなか改革が進まない点が指摘されています。
蔡氏はどちらかというと保守的ですから、国民党系の旧官僚を重用して、本来進めるべき台湾主
権の確立が遅れるのではないかという声もあります。
◆台湾最大の「政治課題」とは?
目下、台湾最大の政治課題は、「民主主義」に絶対不可欠な成熟した法治社会です。台湾もやっ
と70年間にわたる華僑王国から脱出し、「人治」から「法治」へと向かおうとしています。しか
し、70年間の「負の遺産」はあまりに大きく台湾にのしかかっており、時間がかかるのは仕方のな
いことでしょう。
そして台湾丸は中国大陸へではなく、太平洋に向けて出港して日本に接近しようとしています。
私はすべてが順風満帆であることは期待していません。方向性だけでも間違えなければいいので
す。
李登輝次代は「教育改革」を行いました。蔡英文時代は「司法改革」に着手できればそれでいい
と思っています。完成までは期待していません。
また蔡英文総統は「国防産業」にも重点を置くとしています。私は日本の防衛省の方から、台湾
の「国防産業重視」はアメリカの軍事産業との関係強化を意味していると言われました。
しかしこれは、日本の防衛問題にも刺激となると思っています。日本は「安保法制」だけで「戦
争法だ」と批判されるくらいですから、単独で防衛産業の強化ともなれば猛烈に批判されることに
なり、ほとんど無理でしょう。
そこで台湾の国防産業強化を契機として、日米台の軍事・安保関係を強め、同盟関係へと発展さ
せていくことがいいのではないかと思っています。
李登輝、蔡英文、安倍晋三には昔からの人間関係があり、それに親台湾と言われる小池百合子都
知事も加わることで、これからの日台外交はさらに深化していくことが期待されます。