ての資質を疑わせるのに十分な「とんでも発言」だったことを指摘している。下記に全文を紹介し
たい。すでに立法院の内政委員会が会談2日後の11月9日、馬氏のミサイル発言の撤回と謝罪を決議
したことは上述したとおりだ。
◇ ◇ ◇
台湾、中国に武器撤去強く求めず 首脳会談の非公開部分
台北=鵜飼啓、北京=林望
【朝日新聞:2015年11月9日】
台湾の馬英九(マーインチウ)総統が、シンガポールで7日に中国の習近平(シーチンピン)国
家主席と会談した際、中国に台湾対岸のミサイル撤去などを強く求めていなかったことが分かっ
た。行政院大陸委員会が9日、非公開部分の発言を公表した。台湾での会談の評価は割れている
が、批判が強まる可能性がある。
1949年の分断以来初となった首脳会談は冒頭発言が報道陣に公開された後、非公開で行われた。
公表された発言によると、馬氏はミサイルや台湾侵攻を想定した軍事演習をめぐり、「野党が両
岸(中台)関係を批判する際の口実に使われる。機会があれば善意ある具体的行動を取っていただ
けないか」と述べていた。総統として軍を統帥する立場だが、自身は問題視していないと受け止め
られかねない内容だ。
このため、野党は早速批判。来年1月の総統選で政権奪回を狙う民進党の蔡英文(ツァイイン
ウェン)主席は9日、「軍事問題は生命や財産の安全にかかわる。発言ぶりには失望させられる」
と述べた。
大陸委が発言内容を公表したのは、馬氏が「台湾の立場をきちんと主張しなかった」との批判が
出ているためだ。会談では、中台が「一つの中国」原則を確認したとされる「92年コンセンサス」
の重要性を双方が強調。台湾にとっては「中国」は「中華民国」を指すが、馬氏は冒頭ではこうし
た立場に触れなかった。
非公表部分で言及が確認されたが、馬氏ブレーンで、会談に同行した趙春山・淡江大学中国大陸
研究所教授によると、馬氏は冒頭で解釈の違いに触れる意向だった。ところが、この立場を受け入
れていない中国が反発し、取りやめた。「共通認識」のはずが、実際には食い違いが大きいことも
浮き彫りになった。
与党・国民党寄りの台湾紙・聯合報の8日の世論調査によると、首脳会談の評価は「満足」が
37・1%、「不満」が33・8%と二分。40歳以下では41%が不満とし、若い世代で批判が強かった。
会談では、習氏が第2次大戦終戦による「抗日戦争勝利」で共同研究を提起していた。非公表部
分では、馬氏が「開放的な態度だ」として前向きに応じていたことも明らかになった。
一方、中国では主要メディアは一斉に「歴史的な会談」(京華時報)と評価しているが、世論は
祝賀ムード一色ではない。ネット上では、会談の一部を生中継した国営中央テレビが馬氏の発言を
伝えなかったことや、記者会見で馬氏が自ら質問に答えたのに習氏は姿を見せなかったことが話題
に。民主主義や言論の自由を認める台湾との体制の違いが浮き彫りになり、「自信のなさの表れ
だ」といった批判が続出。会談に関する書き込みができなくなった。
(台北=鵜飼啓、北京=林望)
◇
〈92年コンセンサス〉
中台が「一つの中国」原則を確認しつつ、台湾側が「中国」が何を指すのかはそれぞれが解釈す
るとした1992年のやりとり。中台はこれを「コンセンサス(共通認識)」と位置づけて交流を深
め、首脳会談でもその重要性を確認した。だが、中国は「それぞれが解釈する」という台湾側の主
張を受け入れておらず、共通認識と言えるのかどうか台湾では論争が残っている。