2月下旬に安倍首相が訪米し、日米同盟の絆の深さを確認することになっている。
消息筋はTPP参加の明言ができないためF35次期ステルス戦闘機など1千億円程度の武
器購入が安倍訪米時の手土産だろうと勝手な推測をしている。
巨大な手土産は安倍新外交の成果である。
これは新兵器システムなど金額ではかれるものではない。
1年前、オバマ大統領はAPECハワイ会談で対中囲い込み政策を示唆し、訪豪しギラー
ド豪首相とダーウィン基地へ飛んだ。米海兵隊の駐留予定基地でアジアへの安全保障の濃
厚な関与を宣言した。同時にクリントン国務長官はミャンマーへ飛び、制裁をやめ大々的
梃子入れを約束した。ベトナムには米空母が寄港し、アジア各国は米国の本格的アジア復
帰を歓迎した。
このままでは東シナ海から南シナ海が海洋覇権を求める中国の海と化け、海洋の法の支
配は存在しなくなるところだった。
イラクから撤退完了した米国はアフガニスタンからも2014年を目処に撤収し、次はアジ
ア関与戦略が本格化する。補完の役目を日本が担うことになり、辺野古、オスプレイなど
前民主党政権が悪化させた日米関係悪化の材料は消えつつある。
安倍政権発足直後、麻生財務大臣はミャンマーへ飛んだ。そこで過去累積の5000億円借
款を事実上帳消しにし、新しく500億円を供与して工業団地を建設する。ミャンマーを経済
影響下においてきた中国としては不愉快な出来事である。
岸田外相はフィリピンなどを訪問したが、とくにマニラ政府に対して巡視船10隻の供与
を約束した。フィリピンは中国に領海を侵犯され岩礁の帰属をめぐって軍事的対立を続け
てきた。フィリピンはこうした文脈から「日本の防衛力拡大を歓迎する」とイの一番で支
援声明をだした。
そのうえで安部晋三首相はベトナム、タイ、インドネシアを歴訪した。
ベトナムには巡視艇を新造し供与するほか原子炉建設、新幹線建設への協力が謳われた。
インドネシアではユドヨノ大統領と会見し「価値観外交」を前面に出し「言論自由とい
う価値観」「自由な市場」、そして「海洋の法の支配」などの5原則を謳った。
これは日本外交の基本が中国を牽制しているばかりか、中国の全体主義路線や国家資本
主義経済、海洋における覇権追求と対峙することを意味する。日中は明確に利益を異にし
て対立していく構造が外交的に確認されたのである。
ところが日本のマスコミはアルジェリアにおける過激派の日本人人質殺害事件に目がい
きすぎて安倍外交のアジア重視五原則を軽視した。英誌『エコノミスト』は「米国関与の
時代が来た」と書いて、オバマ政権のアジア回帰を特集し、「中国封じ込めがアジアを舞
台に行われるだろう」とした。
世の中がめまぐるしく変貌し、企業も置いてきぼりされる前に「チャイナ・プラス・ワ
ン」(中国の他にも拠点)を早急に模索し始める情勢である。
(本稿は『北国新聞』コラム「北風抄」、2月4日付けの再録です)