間との信頼関係で結ばれている若者たちの姿に、心から感動した。それは、若者たちの中に、これ
ほどまでに台湾人アイデンティティーがしっかり根付いていたのか、という驚きでもあった。
このときに書いた詩や父に関する詩をまとめて、今年の3月30日に台湾の玉山社から詩集『故郷
のひまわり』を上梓した。日本語原文に中国語と台湾語の訳を併記する形を採ったのが、特徴であ
る。
両親の故郷台湾に、私は2000年の陳水扁総統就任式のときまで行ったことがなかった。父、王育
徳(おう・いくとく)は台湾独立運動をしていたためにブラックリストに載せられて帰国できな
かったし、「台湾が独立するまでは帰らない」という母親の矜持もあったからである。日本で生ま
れ育った私の一番身近な故郷は、この日本である。しかし、幼い頃から自分は台湾人だと自覚して
いた。
父は25歳で日本に亡命し61歳でこの世を去るまで、一日として台湾のことを考えない日はなく、
台湾人の国家誕生のために生涯を捧げた。父が亡くなったのは、1985年。だから残念なことに、父
は民進党の誕生も、李登輝先生の総統就任も、陳水扁総統の誕生も見ることができなかった。しか
し、父が願っていたとおりに、踏みつけられた固い台湾の土から、ある時々、奇跡的に種が芽吹く
時があり、台湾の希望をつないできたのだ。
今の台湾は、国民党の一党独裁体制から解放されたものの、今度は「台湾併呑」を主張する外
敵、中共と真剣に向き合わなければならない状態に置かれている。中国は二千発のミサイルを配備
し、台湾が独立すると言ったら軍事力を行使すると「反国家分裂法(2005年)」を作って脅迫して
いる。その上で「以商囲政」(経済を使って政治を追い込む)「以民逼官」(民間を使って政府に
圧力をかけさせる─これは民進党時代)政策をとり、経済による中台統一作戦を取ってきた。これ
に呼応し手伝ってきたのが、馬英九である。つまり、台湾人は内に中国国民党、外に中国共産党と
いう敵を抱えている。
正義はどこにあるのか。それは台湾人にある。台湾は歴史上も国際法上も中国のものではない。
しかし、巨大国家の前に正義は踏みにじられ、台湾民族は滅ぶ運命にあるのか。そうあってはなら
ない、という台湾人の抵抗が「ひまわり学生運動」であった。サービス貿易協定の国会審議が30秒
で打ち切られるという非民主的手段に反対するという形で始められた運動だが、根底から若者を突
き動かしたのは、このままでは、台湾が中国に呑み込まれてしまうという危機感であった。
3週間の活動のなかで、学生たちは日々成長していったように思う。そして、自分たちの主張を
伝えていく過程で「台湾の将来は自分たちで守る」「私は台湾独立を支持します」そう堂々と述べ
るに至った。
この若者たちの行動は大人を覚醒したことにも大きな意味がある。それが、昨年11月の統一地方
選挙の結果となった。中国国民党の惨敗は「中国との統一反対」という住民の意思表示であった。
「台湾は主権独立国家として国際社会に正常に存在したいのだ」と声をあげても、中国はあらゆる
手段で妨害してくるだろう。それでも、声をあげなければ、何も始まらない。ひまわり学生運動の
後も、若者達は様々な方法で運動を続けている。
台湾の土には、日本人の努力もしみこんでいる。目には見えないが、日本精神は世代を超えて、
花を咲かせる土地の滋養となっている。台湾に一面のひまわりが咲く日は、日本にとっても明るい
日となるはずである。日本の応援を台湾は待っている。
【機関誌「日台共栄」5月号「台湾と私」(37)】