2016年10月13日、台湾の俳優で映画監督の柯一正(クー・イーチェン)氏がフェイスブックで日
本旅行の体験談を投稿し、話題となっている。同じく台湾の俳優で映画監督の呉念真(ウー・ニエ
ンチェン)氏は「感動した」として柯氏の投稿をシェアした。柯氏は次のように語っている。
この靴を穿くたびに、全速力で駆ける彼女の姿が脳裏に浮かぶ。
先日、私は日本の岡山県倉敷市の美観地区を訪れ、江戸時代の建築物が保存されている街並みを
目にした。ブランドショップやコーヒーショップなどの商店が立ち並ぶ中で、歴史ある建築物はよ
り美しく感じた。
倉敷駅の近くにアウトレットパークがあると聞き、ちょうどラフな靴が欲しかった私は足を運ん
だ。するとある店で濃いブルーの靴がとても気に入り早速試着したのだが、いつも穿く靴のサイズ
より1サイズ大きいものでも入らなかった。若い女性店員はそれより大きいサイズはないと他の靴
も勧めてくれたのだが、やはりブルーの靴が好きでやむなく店を後にした。
その後いくつかの店で靴を見たのだが、どうしても最初に見た靴が忘れられず、同行していた友
人の「歩き過ぎて足がむくれたんじゃない?」との一言もあり、私は再びその店に向かうことにし
た。店に入ると、先ほど対応してくれた小柄な女性店員は私を見るなり驚いた表情を浮かべ、次の
瞬間私は不思議な光景を目にした。
彼女は100メートルを走っているような全速力の速さで駆け寄って来たのだ。彼女の姿をスロー
にすれば、きっと指先がピーンと伸びた短距離走のお手本のような姿勢であったと分かるはずだ。
私の前にたどり着くと、彼女は身をかがめ、一足の靴を取り出した。「また試着に来ることが分
かっていたのか?」と考えていた私は、靴のサイズにビックリした。それは先ほど試着した靴より
1サイズ大きいものだったのだ。彼女は笑顔で靴を差し出し、その靴は窮屈な感覚が全くないまま
私の足にフィットした。私と友人は途端に笑顔になり、彼女の対応に感動を覚えた。
私が店を去った後も彼女は諦めることなく大きいサイズの靴を探していたのだろう。目当ての靴
を探し当てた彼女だが、私が戻るかどうかはもちろんわからず、もしかしたら私が店にいた時に見
つけられなかったことを悔やんでいたのかもしれない。私の姿を見つけ全速力で駆ける彼女の姿や
表情からは彼女の心情が見えた。
友人の言葉がなければ私は店に戻ることはなかった。そして彼女の努力を知ることもなく、お気
に入りの靴を手に入れることもできなかった。たかが一足の靴かもしれない、だが、彼女の真剣な
対応を目にし、バブルがはじけて数十年たってもなお日本が倒れない理由が分かった気がする。
(翻訳・編集/内山)