呉正男・本会理事が朝日新聞の「語り継ぐ戦争(5)かながわの戦後70年」に登場

8月8日から朝日新聞の神奈川版は「かながわの戦後70年」を連載、県内在住の戦争体験者へのイ
ンタビューを掲載している。その5回目に本会理事でもある呉正男(ご・まさお)氏が登場してい
る。

 呉氏は戦時中に志願し、大型爆撃機とグライダーで構成された部隊に配属された。この爆撃機に
乗り込む通信士だったという。北朝鮮で終戦を迎え、戦後はソ連に抑留された体験を持つ、数少な
い台湾出身者だ。酒井充子(さかい・あつこ)監督の映画「台湾アイデンティティー」の出演者の
一人としてこの戦争体験を語っている。

 記事には出てこないが、奥多摩で毎年5月末に行われている戦歿台湾出身者の慰霊祭や、毎年11
月23日に本会の李登輝学校日本校友会が靖國神社で催している「台湾出身戦歿者慰霊祭」には必ず
参列している。戦争への思いは台湾への思いとともに深い。

 映画「台湾アイデンティティー」が上映中の一昨年7月、本会の台湾セミナーで映画出演のこと
や戦争体験、台湾への思いを語っていただいた。そのときの案内状に掲載したプロフィールを下記
に紹介したい。

                 ◇   ◇   ◇

呉 正男(ご・まさお)
1926年(昭和2年)、台湾・斗六生まれ。昭和16年、13歳のとき日本へ。16歳で陸軍特別幹部候補
生となり水戸航空通信学校に入隊。滑空飛行第一戦隊に配属。北朝鮮で終戦。ソ連抑留後、復員。
法政大学卒業後、信用組合横浜華銀入社。専務理事を経て理事長に就任。「NHKのど自慢大会の
台湾開催をお願いする日台の会」会長などを歴任。現在、日本媽祖会副会長、東京台湾の会顧問、
本会理事。


兵は消耗品 17歳の決意 台湾出身の呉正男さん(88)
語り継ぐ戦争(5)かながわの戦後70年
【朝日新聞・神奈川版:2015年8月14日】

http://www.asahi.com/area/kanagawa/articles/MTW20150814150150001.html
写真:「戦争の話を進んでしたことはないが、聞きたいという人もいなかった」と語る呉正男さん
   =横浜市中区

 「そんな部隊があったのかと、今の人には信じられないでしょうね」。横浜市中区の呉正男さん
(88)は特攻隊の経験者だが、戦闘機でも潜水艇でもない。グライダー特攻隊だという。

 台湾出身の呉さんは1941年春、留学のため来日し、東京の中学に入った。3年生の時、陸軍に志
願し44年春に水戸の航空通信学校に入った。飛行機に搭乗しての通信技術を学び、その年暮れには
茨城県内の飛行隊に配属された。

 大型爆撃機とグライダーで構成された部隊だった。グライダーは全幅23メートル、全長13メート
ルもある大型で、20人以上を乗せることができた。爆撃機でそのグライダーを曳航(えいこう)
し、高空で切り離したグライダーが敵の基地に音もなく着陸、乗り込んだ「滑空歩兵」が地上に展
開し攻撃することを目指す特攻隊だった。

 着任するなり、「私物を家族に送り、遺書を書くように」と命じられた。フィリピンへ出撃する
直前だった。ところが、一足早く出発した「滑空歩兵」を乗せた船が沈められてしまい、出撃は中
止になった。

 45年5月に朝鮮北部の航空基地へ移った。爆撃機に歩兵を乗せて敵の基地に強行着陸する特攻隊
の出発を見送った。その後、九州の基地から12機が出撃したが、沖縄の飛行場に突入できたのは1
機だったと聞いた。

 爆撃機に乗り込む通信士が呉さんの役割。グライダーを引くため爆撃機のスピードは遅く迅速に
は動けない。「生きて帰れるなどとは思ってもいなかった」

 基地の中にある神社に集められたのは7月初め。地上戦が終わり米軍が占領している沖縄に向け
出撃する作戦を伝えられ、第1陣の隊員を選ぶとして意識調査の用紙が配られた。

 そこには三つの選択肢があった。

 「志望」「熱望」「熱烈望」

 「これで命が決まる。いよいよ来たな」と思った。呉さんは「熱烈望」に丸をつけた。

 ところが呉さんは選ばれなかった。ほぼ全員が同じ回答だったようで、戦後に隊長に尋ねると
「長男は外した」と説明された。

 「神龍特別攻撃隊桜空挺(くうてい)隊」と名付けられた一行は8月5日に出発した。いったん日
本本土に移り、そこから8月中に沖縄を目指す計画だったが、その前に15日を迎えた。

 一方、朝鮮に残った呉さんは、敗戦でソ連の捕虜となり、中央アジア・カザフスタンの収容所に
送られ抑留された。日本に戻ってきたのは47年7月だった。

 その後、東京で大学を卒業し、発足して間もなかった信用組合「横浜華銀」に就職し、中華街の
発展を見守り、理事長もつとめた。

 その間、戦争体験を語ることはほとんどなかった。

 「兵はすべて消耗品だと自覚していたから、自分の体験が特別だとは思っていないよ。知る人が
少ないのも、私の部隊は実際には出撃しなかった幻の特攻隊なんだから当然だよ」

 「中華街には、特高警察や憲兵にひどい目に遭った人が多かったから、志願して軍隊に行った経
験なんて話せないよ。それに当時私は17歳だよ。〈どんな思いでしたか〉なんて聞かれたって、細
かいことなんて覚えてないよ」

 「日本は大好き。でも台湾人としての誇りがある」。呉さんは台湾籍を変えることなく生きてき
た。そのため、軍人としても、抑留者としても、日本から補償を受けたことはない。

 そんな日本政府に不満はあるが、「私は強運」と思うという。「どこかで少しでも違っていた
ら、私は生きていなかった」

                                      (渡辺延志)


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