【佐賀新聞「有明抄」:2018年2月27日】
九州とほぼ同じ面積を持つ台湾。長い歴史の中で、外からの力に翻弄(ほんろう)されてきた。台湾映画「非情城市」(1989年)には、第2次世界大戦直後の1947年に起きた2・28事件が描かれている。侯孝賢(ホウシャオシェン)監督の出世作である
◆台湾の統治を日本から引き継いだ国民党政権が、台湾人の抵抗運動を弾圧。2万人強ともいわれる人々が殺害された。そこには大陸からきた「外来政権」の腐敗や横暴への、台湾人の強い不満があった
◆「イヌが去ってブタが来た」。戦後の台湾で、政権交代を皮肉った言葉だ。「イヌ(日本)はほえてうるさいが、番犬にはなる。ブタ(国民党)はエサばかり食べて働かない」という強烈な意味。映画では台湾北部の町で商売を営む一家が、事件に巻き込まれていく
◆その長男が「この島の者は哀れだ。日本人の次は中国人。喰(く)われて、踏まれて捨てられる」と吐き捨てるように言う。侯監督は、台湾人の揺れるアイデンティティーを映画で表現した。語り口が静かで詩情あふれるだけに、底流にある怒りが、かえって胸に迫る
◆映画の舞台の九份(きゅうふん)は、昭和の日本を思わせるレトロな風情がある。昨年、訪ねた印象だ。事件からあすで71年。台湾の人々は今、強大化する中国にのみ込まれることを恐れる。中台の共生に向けた対話は、いつになれば実現するだろうか。(章)