全国紙では、余り大きな扱いではなかったが、地方自治体に大きな問題提起をしてい
る記事があった。それは、何かと言うと、去る5月東京都は、台湾から都内に転入した
人の住民票について、転出入地の記載を「台湾」表記に認めるという事務文書を各市区
町村に通知した。2000年の地方分権一括法の施行に伴い、住民基本台帳の事務は、完全
に市区町村移行したことに伴って、国名の表記は、各市区町村が独自に判断できること
となったが、今までの国の指導、慣例等もあり、台湾表記については、あいまいさを残
していた。市区町村の判断となったものを都が表記について、拘束するのは現状にそぐ
わないと判断し、改めて通知したものとされている。一つの通達文書であるが、都の判
断は、全国の都道府県や市区町村に大きな影響をもたらしたものと思っている。
9月に入り、米国の移民局では台湾出身者が移民申請をする場合は、「台湾」記入に
改められたことも報じられていた。これによって、米国では、従来台湾の国籍名を「中
華人民共和国」「台湾 中国」「台湾 中華民国」など表記していたが、これ等を統一
した形になった。
日本の場合は、これまでは、どのように表記していたかと言うと、「中国」、「中国
(台湾)」、「中国(台湾省)」などマチマチであり、頭には、必ず中国が付いていた。日
中国交回復で、中国は一つと言う中国側の主張を取り入れたことが、大きく影響してい
るが、歴史上台湾は、一度も中国に統治されていた事実は存在しない。お隣の韓国でも
ハングル文字で「タイワン」と表記している。
ここでの問題は、何を指摘したいかと言うと、現在、道州制や地方分権の議論が行わ
れつつある。その中では、国は、小さな政府を目指して安全保障や外交などを扱い、そ
の他地方にできることは、極力地方へ役割分担を移し、地方分権、道州制の実現を目指
しているものと思っている。住民票の表記は、受けてである市町村が、歴史的な認識事
実も含めて、その重要性をもって判断し、行動として説明できる職員人材も必要なこと
が分からなければならない。
一方、国にしてみれば、地方分権推進の立場から、権利を地方に委譲したにもかかわ
らず、相変わらず国の指導などを仰ぐこととなれば、これでは、任せておけない。と言
う空気も発生する。これ等は、ほんの一例に過ぎないが、要は、地方分権が進む中で、
市町村といえども高度なキャリアが求められており、前述の台湾表記だけを取っても、
アジア史における中国と台湾の関係、我が国と台湾の関係、さらに国内法との関係等々、
様々な判断が求められることとなり、地方分権時代だからこそ、歴史認識を含めたしっ
かりした判断が必要でもある。