台湾初の画期的な『台湾歴史辞典』が出版

構想8年、編集3年、執筆者100人以上、収録項目数4,600語

 今年7月8日、台湾で画期的な内容の『台湾歴史辞典』が出版された(台湾・
遠流出版社 定価3,000元:約9,000円)。
 この『台湾歴史辞典』の監修者に『認識台湾』の編者をつとめた国立台湾師範
大学の呉文星・文学院院長が入っていることからもわかるように、台湾人による、
台湾人のための初めての歴史辞典だ。
 台湾の行政院文化建設委員会(以下、文建会)が、中央研究院、台湾大学、国
家台湾文学館など国内の主な学術機関と共同で進めてきたもので、紀元前から2000
年までの台湾における政治、外交、軍事、経済、社会、教育、文化、風俗など各
分野が網羅され、収録項目数は4,600語、執筆者は100人以上という大掛かりなも
の。監修は、教育が国立台湾師範大学の呉文星・文学院院長、文化が日本・愛知
大学の黄英哲教授、経済については清華大学の劉瑞華教授、政治は政治大学の薛
化元教授が、それぞれ担当している。
 その画期的な内容について、台湾週報の最新号(10月10日号)がレポートして
いるのでご紹介したい。
 辞典は文化である。辞典や辞書の代名詞とでもいうべき岩波書店の『広辞苑』
をみてもわかるように、出版社が総力をあげて作る総合力の賜物だ。しかし、こ
の『広辞苑』にも偏向記述がないわけではない。例えば「台湾」について「1945
年の日本の敗戦によって中国に復帰」と記述するなど、「台湾は帰属未定」とす
る政府見解を逸脱して、執筆者の史観が入っている。
 このような誤れる日本の台湾観を是正するためにも、速やかな日本語訳出版を
強く望みたい。                        (編集部)


 【台湾週報 10月10日 第2162号】

 これまで台湾史ならびに台湾を研究するものにとって、最大の難所となってい
たのが、まとまった歴史辞典がないことだった。だからちょっとした項目を調べ
るだけでも、あちこちの資料を漁り、それだけでけっこう時間を費やしてしまっ
ていた。ところが今回、そうした煩わしさを一挙に解決してくれる辞書が2004年
7月に発刊された。『台湾歴史辞典』がそれだ。サイズはB5版の大きさで1,375
頁、収録数12,000項目という本格的なものだ。
 ページを開いてみて驚いた。台湾史のすべてがこの1冊に網羅され、まとめら
れているといった感じだ。しかも台湾開発の草創期から現代の10大建設まで、項
目は台湾のすべての時代にまたがり、かつ人名辞典としても完璧だ。しかもイデ
オロギーに偏ったものはなく、すべてが客観的に記されている。したがって日本
統治時代についてもきわめて細部にわたる項目、人物が紹介されている。
 これだけ大掛かりで専門的なものは、採算面を考えればまず出版されないだろ
う。なるほど本書の企画は行政院文化建設委員会が、中央研究院、台湾大学、台
湾師範大学、政治大学、台湾文学館などの学術機関と共同で進めたもので、構想
に8年、編集に3年の歳月を費やしている。編纂の中心となった中央研究院の許
雪姫・研究員はこの辞典について「これまでは清朝、日本統治時代、戦後と、各
時代の台湾の歴史は研究されてきたが、歴史全体を研究するための工具書となる
ものがなかった。この『台湾歴史辞典』は、研究者にとって調査と研究に便利な
格好のツールとなるはずだ」と語っている。その通りの大辞典である。
 本書の中から珍しい一項目を拾ってみよう。
〔豊臣秀吉高山国招諭文書〕:「十六世紀末、豊臣秀吉は日本内部の動乱を平定
した後、国力の海外拡張を計画し、朝鮮に出兵し、琉球に従属を促し、同時に高
山国(台湾)にも従属を促す使者を遣わした。一五九三年十二月二十七日、使者
は高山国招諭計画の書簡を携えて台湾に向かった。内容は古代中国の聖王による
討伐の文書に似ており、まず当人の出生から書き、『母親が瑞なる夢を見、室内
に光が満ち、衆人は驚き、この者が四海を平定し、異邦を臣服せしめると覚った。
現在、四方が来朝し、朝鮮が臣服しないため派兵して征伐した後、和を求めてき
た。琉球も年々来貢している。今、高山国に使者を派遣し、もし来朝せざる場合、
これを征伐する』と記されていた。豊臣秀吉が高山国を従属させようとしたこと
は、明朝とフィリピンに割拠しているスペインの東アジア情勢に緊張をもたらし、
スペインは先に台湾を占拠して日本の南下を防ごうと準備を進め、明朝も澎湖の
防備を固め、日本が台湾を経て大陸沿海を侵すのを防ごうとした。この後しばら
くして豊臣秀吉は死去し、日本の武力対外拡張は一段落し、東アジアは平静を回
復し、スペインは台湾占領を取りやめ、明朝も東南沿海部の防衛を緩和した」

 このように、日本と台湾の関係については、日本で発刊されている研究書より
も詳しい。また500頁にわたる別冊の付録には鄭氏政権時代、オランダ時代、日本
時代、清朝時代の各官僚、郡主、知事、軍司令の歴代名簿、行政区設置や鉄道敷
設の沿革、古跡紹介などが掲載され、史料的価値もきわめて高い。
 本辞典は台湾の遠流出版社から定価3,000元(約9,000円)で出されているが、
日本では市販されていないのが残念だ。だが東京・三田の台湾資料センター(電
話:03−3444−8724)に1冊が置かれており、研究者の方々の閲覧を是非お勧め
したい。                      (本誌編集部 10月)



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