『南風(なんぷう)』が公開されている。7月19日からは「横浜ニューテアトル」と「シネマート
心斎橋」、7月26日からは愛媛の「シネマサンシャイン大街道」と「千葉劇場」というように順次
公開される。萩生田監督へのインタビューを産経新聞が掲載しているので下記に紹介したい。
ちなみに、この映画のエンディングに訪れるのが愛媛県のしまなみ海道。実は、今年の秋、台湾
の「日月譚(じつげつたん)自転車道」が姉妹提携する予定となっている。海外と国内の自転車道
と海外の自転車道の姉妹提携は初めてだという。映画『南風』がこの快挙をいっそう盛り上げてく
れることを期待したい。
◆映画『南風』公式サイト:http://www.nanpu-taiwan.com/
自転車の動きで表現した喜怒哀楽 日台合作映画『南風』萩生田宏治監督インタビュー
【産経新聞:2014年7月10日】
『南風(なんぷう)』は、台湾と日本が舞台の自転車ロードムービーだ。なぜ自転車がテーマな
のか? その答えは、作品の随所に現れる軽快なリズム感、あるいはダイナミックな躍動感が物
語っている。(産経デジタル 日下紗代子)
◆自転車の動きが描く喜怒哀楽
青く澄み切った海岸、美しい木々の木漏れ日、レンガ造りのノスタルジックな家々…台湾の変わ
り行く景色の中を、主人公達を乗せた自転車が時には穏やかに、また時には慌しく駆け抜けてい
く。坂を下り、橋を渡り、台湾最古の寺院を訪れたかと思うと、一転、活気あふれる市場に向か
い、大胆にカニを頬張る。
「主人公の不安定な感情を、自転車を使って風景を変えて、動きの中で立体的に表現したかっ
た」
メガホンをとった萩生田宏治監督(47)の狙いは、映像のすみずみにまで結実している。自転車
の走りに合わせて天候や場所、風景が変化する中で、若者たちの喜怒哀楽も揺れ動く。そのスピー
ドは速く、せわしく、なぜか心地よい。
劇中に、印象的なシーンがある。モデルを夢見た台湾の少女トントンが乗る電車を、主人公の藍
子が必死になって自転車で追いかける。がむしゃらに自転車をこいで後を追う藍子の姿に、トント
ンの心は揺さぶられる−。作品のクライマックスも、自転車の動きが重要な役割を演じている。
萩生田監督は、エンディングに訪れる愛媛県のしまなみ海道についても「橋から見える風景が全
部違う。島と海しかないんですけど、島の位置とかで表情がどんどん変わるんです」と熱く語っ
た。視覚への鋭敏な感性は、撮影のアングルや遠近感、雄大な風景を収めるカメラワークによっ
て、作品に現われている。何に対しても「面白い」と感じ、チャレンジを繰り返した千変万化な映
像作りは、監督自身の映画を作ることへのモチベーションの表れでもあるように感じた。
◆壁を乗り越えるための“旅”
萩生田監督も学生時代、自転車乗りであり、よく自転車で旅に出たという。監督は当時を振り返
りつつ、「旅も映画も似ている」と語り始めた。
「問題にぶつかったときには、自分が一つの殻に閉じ込もらないことが重要」
そう考える萩生田監督は、「自分の価値が、いくつもある価値の一つであることを知る意味
で、“旅”することは大事なこと」と話す。
劇中で、仕事も恋愛もうまくいかない藍子と、家族に反対されながらもモデルの夢に向かって猛
進するトントン。壁に突き当たり、乗り越えるために台湾を自転車で旅する二人の姿は、若かりし
頃の監督自身に重なる。
「困難なとき、自分のなかに別の視点が生まれることで救われることがある。それが直接的な解
決にならなくても、ちょっと光がみえたりする。自転車の“旅”の物語を通して、お説教ではなく
そんなことを伝えていければ、と思って作品に取り組んだ」
◆理解し合うまでコミュニケーション
日台合作として制作された本作品。12日間の短い撮影期間では、日本語と中国語の言葉の壁を乗
り越えることが最大の課題となり、出演者やスタッフが一丸となって取り組んだ。
萩生田監督自身、台湾で仕事をするのは人生で二度目。自身の思いを伝えようと言葉を尽くして
何度も説明する中で、思いがけない発見があったという。
「説明しなきゃいけない、ではなく、しゃべって理解してもらうことが、だんだん楽しくなって
いったんです」
また、景色の変化にこだわって撮影に取り組んだ萩生田監督は、「その場その場のやり取りの中
で偶発的に生まれるものを作品に取り入れる。そうして仕上がっていく映画ってどんなふうになる
のか、まさにチャレンジでした」と振り返る。
このため、日台のスタッフはアイディアを持ち寄り、互いに“意図”を理解し合うまでコミュニ
ケーションをとったという。そうした生身の熱さは、作品に奥行きと臨場感をもたらしている。
「日本のスタッフは、効率的で、台本読みもしっかりしていて、あうんの呼吸で動いてくれるの
でやりやすい。しかし、反対に台湾のスタッフには、自分のやりたいことがその場その場で問わ
れ、心地よい緊張感があった。『説明に疲れたから勘弁してくれ』というのではなくて、むしろ力
をもらうような体験でした」
日台合作という難しい作品作りに自然体で臨み、新たな作風に結実させた萩生田監督。言葉の壁
を乗り越えたが、今後は「歴史や文化など、根底で“通じ合えない困難”があるとき、人がどんな
リアクションをしていくかを描いてみたい」と更なる作品作りに思いを馳せた。
『南風』は7月12日(土)にシネマート新宿(東京)で公開。その後、全国の映画館で順次公開
される。
■映画『南風(なんぷう)』
出演: 黒川芽以、テレサ・チー、郭智博、コウ・ガ
監督: 萩生田宏治
脚本: 荻田美加、攝影師: 長田勇市JSC、音楽: 赤い靴、共同企画:(c)森
永あい/白泉社(メロディ)
公式サイト:http://www.nanpu-taiwan.com/