北京冬期五輪の組織委員会報道官が「台湾は中国の不可分の一部」などと発言

 政治的な中立を求められ、オリンピック憲章でも政治的中立を掲げるオリンピックだが、北京で開かれている冬期オリンピックではそれが守られていない。

 2月17日の定例記者会見において、組織委員会の厳家蓉・報道官が、中国のウイグル族弾圧について「?だという証拠がさまざまな団体から出ている」「しっかりした証拠もない間違った情報だ」と否定し、台湾についても「中国は世界に一つだけだ。台湾が中国の不可分の一部であることは国際社会で認められて」いると答えたという。

 朝日新聞も驚きを隠さない筆致で「中国政府の主張に沿った発言」で「異例の発言で、外国メディアからは『政治的発言ではないか』との指摘もあがった」と報じている。

 この厳家蓉・報道官は発言の後に「スポーツを政治利用すべきではない」とか「五輪を政治に使うことには反対だ」と付け加えているが、厳家蓉・報道官の発言こそまさにスポーツを政治利用した発言であり、五輪を政治に使う、中国政府の主張に沿った政治的発言そのものだ。

 まさか「台湾は中国の不可分の一部」という発言は、個人の信念や考え方だとでも思っているのだろうか。もしそうだとすれば、中国の洗脳教育の表れであり、正常な判断ができないということだから、逆に怖気(おぞけ)立つ発言ともなる。

 それに輪をかけているのが広報部長の発言で「(厳氏の発言は)厳氏の視点であり、大会の外の問題だ」と述べたという。

 競技の外と言いたいのだろうが、2021年8月8日から有効とする「オリンピック憲章2021」では「オリンピック・ムーブメントに所属する個人および組織は、どのような活動資格であれ、オリンピック憲章の規則に拘束され」ることを謳い、「オリンピック・ムーブメントにはオリンピック競技大会の組織委員会」も含まれると明記している。

 そして「オリンピック・ムーブメントにおけるスポーツ団体は、スポーツが社会の枠組みの中で営まれることを理解し、政治的に中立でなければならない」と明記する。

 広報部長の発言は「(厳氏の発言は)厳氏の視点」だから問題ないと言いたいようだが、オリンピック・ムーブメントに含まれる組織委員会の、それも公の定例記者会見での発言だ。オリンピック憲章の規則に拘束されるのは当然だろう。オリンピック憲章を守らなければならないIOC広報部長とも思えぬ発言だ。

 国際オリンピック委員会(IOC)のバッハという会長も、女子テニス選手の彭帥氏の問題でも開会前に「彭帥氏は無事で安全だ」と発言したり、開会後も彭帥氏と食事をするなど、まるで中国政府の代弁者のような振る舞いに批判が巻き起こった。

 今度は組織委員会報道官の中国政府の主張に沿った政治的発言であり、それをIOCの広報部長が報道官の個人的視点だとして、オリンピック憲章の規則違反にもかかわらず見て見ぬふりをした。これを「恥の上塗り」という。

 スウェーデンの金メダリストは、帰国後の記者会見で「深刻な人権侵害を行っている中国のような国でオリンピックを開催させることは最悪であるとともに極めて無責任だ」とする旨を発言し、ドイツの金メダリストも、オリンピック前には中国を厳しく批判していたものの、現地記者会見で中国の人権問題を問われると「いつ、どこで、何を言うかは慎重にしなくてはなりません」「ドイツに帰ってからは言うかもしれないが、ここでは話さない」と述べて口をつぐんだ。

 人権や発言の自由のない中国の異様さが、またしても報道官と広報部長の発言によって立ち顕れたオリンピックとなっている。下記に、このことを伝える産経新聞の記事をご紹介したい。

◆オリンピック憲章 https://www.joc.or.jp/olympism/charter/2021/book/book.pdf

—————————————————————————————–ウイグル問題は「?」 組織委報道官が政治的発言【産経新聞:2022年2月18日】https://www.sankei.com/article/20220217-UQQVR66X2RO7ZIIPSGFY7VLXWQ/?outputType=theme_beijing2022&utm_medium=gnews&utm_content=rundown&utm_source=newsshowcase&utm_campaign=CDAqEAgAKgcICjChzPAKMMeRuwIwjps6

【北京=桑村朋】北京冬季五輪大会組織委員会の厳家蓉報道官は17日の定例会見で、新疆ウイグル自治区での強制労働などに関する質問に対し、「?だという証拠がさまざまな団体から出ている。スポーツを政治利用すべきではない」と発言した。国際社会で論争を呼ぶ問題に関し、政治的中立を掲げる五輪の主催者が自国の主張に沿う政治的発言を行うのは異例だ。

 大会公式ユニホームを提供する中国スポーツ用品大手「安踏体育用品」などの製品が新疆での強制労働によるものではないかとする海外記者の質問に答えた。

 厳氏はまた、中国当局がウイグル族らを強制収容しているとの疑惑に関し、別の記者が国際オリンピック委員会(I OC)に意見を求めた際にも、「私からも簡単に答えたい」と自ら挙手。「しっかりした証拠もない間違った情報だ。真実に基づいて質問してほしい」と牽制(けんせい)した。

 会見では、台湾選手団が「台湾」ではなく、「チャイニーズ・タイペイ」と名乗っていることへの質問も飛んだ。厳氏は「中国は世界に一つだけだ。台湾が中国の不可分の一部であることは国際社会で認められており、五輪を政治に使うことには反対だ」と語った。

 一方、IOCのアダムス広報部長は大会の公式ユニホームは新疆産ではないとした上で、「IOCは人権を非常に重要視している。(厳氏の発言は)厳氏の視点であり、大会の外の問題だ」と述べた。

 五輪憲章は政治的中立を掲げ、会場内では「政治的、宗教的、人種的な宣伝活動」を禁じている。

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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