中央研究院台湾史研究所の副研究員をつとめる呉叡人(ご・えいじん)氏は立法院の中で学生たちと行動を共にしている。
呉叡人氏は「行動する政治学者、哲学者」とも言われ、李登輝総統政権下の1990年3月に起こった「野百合学運」や「三月学運」と呼ばれる、台湾の民主化を求める学生運動に参加した一人だ。香港の学生たちからも慕われていて『香港民族論』(香港大学学生会、2014年)の著書もある。香港の若者を見ていると、民主化運動をしていた自分の学生時代を思い出すという。
昨年6月に本格化した香港市民による大規模な抗議運動は、今年に入っても止む気配はない。呉叡人氏は香港の抗議運動に強い関心を寄せてきた。この香港状況について朝日新聞など日本メディアも呉叡人氏へインタビューしているが、西日本新聞も香港と台湾をテーマにインタビューしている。下記にご紹介したい。
なお、共同通信も、呉叡人氏が台湾の高校生などを対象とした講演活動を10年以上続けていることを取り上げている。こちらもご参照いただきたい。
◆「台湾人」を覚醒 中国との硝煙なき戦い[共同通信:2019年9月30日] https://www.47news.jp/4056106.html
—————————————————————————————–「自由への闘い支援」 台湾・中央研究院の呉叡人副研究員に聞く【西日本新聞:2020年1月20日】https://www.nishinippon.co.jp/item/n/577087/写真:呉叡人副研究員
混乱が続く香港情勢を台湾の人々はどう見ているのか。台湾政府のシンクタンク、中央研究院の呉叡人副研究員(57)に聞いた。
── 昨年6月から続く香港の反政府デモは台湾社会にどんな影響を与えたか。
「香港の若者が警察と衝突する姿は台湾でも連日中継され、まるでドラマを見るように多くの市民が画面にかじりついた。台湾から見ると香港の人々は経済優先のエコノミックアニマルという印象だったが、今回の抗議活動で印象は一変した。中高年も自由と民主のために闘った30〜40年前の台湾の姿を思い出した」
「台湾の若者たちは通信アプリを使って香港の若者と連携。香港に渡ってデモに参加した市民も多い。昨年6、9月には香港支援の大規模集会が開かれた。各大学にはレノン・ウオールが作られ、応援メッセージの掲示を嫌がる中国人留学生とトラブルも起きている。香港の戦いが台湾にまで広がっている印象だ」
── 台湾に逃げてくるデモ参加者が増えている。
「台湾が受け入れ側に回るのは事実上初めてで、戸惑いもある。中国の圧力など外交的に困難な情勢に置かれる中、積極的に動いているのが市民だ。人権団体や弁護士などが連携して一時的な居場所を提供。一人一人の事情に考慮しながら在留資格の取得などを手伝い、最終的に台湾政府が移住の可否を判断する。台湾社会は総力をもって香港を支援している。ただ、中には親が親中派のため家出同然で逃げてきた未成年者もいる。未成年者の受け入れには保護者の同意が必要で状況は単純ではない」
── 香港情勢は高度な自治を認める「一国二制度」の限界を浮き彫りにした。
「香港の問題は、連邦制など真の分権を実現すれば簡単に解決できる。現実的な香港の人々は受け入れると思う。ところが中央集権の中国は分権ができない。香港を追い詰めた結果が今の混乱だ。中国の間違った政策が“香港ナショナリズム”を作り出した」
「改革・開放の40年で“ゆがんだ発展”を遂げた中国は民主主義がなく、独立した司法制度もない。社会の矛盾を解決する手段は暴力的な鎮圧だけだ。こんな国には誰も近づきたくない。同性婚まで認めた台湾にとって、人権は核心的な価値観だ。真の人権を持つ国に変わるかどうか、今後の中台関係は中国の動向にかかっている」
(聞き手は川原田健雄)