中国の「『一つの中国』原則」承認国は180ヵ国ではなく51ヵ国だった!

 昨年2月のロシアによるウクライナ侵略に対し、ロシア政府は3月7日、対ロ制裁に踏み切った国・地域を「非友好国」に指定するリストを公表した。台湾もそのリストに含まれ、台湾には「中国の領土と見なされているが、1949年から独自の政府による統治が行われている」という注釈を付けていた。

 この注釈からすると、ロシアは、中国が主張してきた「台湾は中国の不可分の一部」という「『一つの中国』原則」を承認していないことになり、当時、産経新聞台北支局の矢板明夫支局長は「今回、思わぬ形で中国の友好国のロシアから台湾の存在が認められ、しかも中国政府がロシアに抗議しなかったのは、多くの台湾人にとってうれしいことのようだ」(2022年3月16日「台湾有情」)と伝えていた。

 ところが、ロシアのプーチン大統領は10月27日、モスクワで開かれた国際フォーラム「ワルダイ会議」の折に「台湾は中華人民共和国の一部」と明言し、制裁リストの注釈と食い違う見解を表明した。

 いったい、どっちが正しいのか、ロシアの政府見解はどちらなのか。その答えを、ノンフィクション作家の譚[王路]美(たん・ろみ)氏が明かしてくれた。

 譚氏は、中国が台湾は中国の一部だとする「一つの中国」原則を世界の180カ国が承認していると主張していることから、国立シンガポール大学政治学系の庄嘉頴副教授が世界各国の公文書にある「一つの中国」原則に対する表記を比較検討した結果を明らかにした。

 この調査では「ロシアは、『respects and supports』(尊重し支持する)という表現に留まり、明快に『台湾は中国の一部』であるとは承認していない」という結果だったというのである。

 ロシア政府の「(台湾は)中国の領土と見なされているが、1949年から独自の政府による統治が行われている」とする見解は、中国の「『一つの中国』原則」を「respects and supports」(尊重し支持する)という公文書に基づく見解だった。つまり、プーチンの見解は政府見解をねじ曲げるウソだったということだ。

 譚氏はまた「『一つの中国』原則を認め、中華人民共和国は唯一の合法的な政府であり、台湾は中国の一部である(不可分の一つの省である)として『recognize』(承認する)という用語を使用している国が51カ国あったが、決して中国がいうように180カ国ではなかった」と指摘し、残りの約130カ国は「中国政府の合法性を承認しつつも、必ずしも台湾に対する主張を受け入れているわけではないことが判明した」とも述べている。もちろん、日本も米国も130ヵ国の一つだ。

 ロシア連邦の国家元首にもかかわらず、政府見解をねじ曲げて中国に都合のいい発言をするプーチン、白髪三千丈よろしく51ヵ国を180ヵ国にふくらまして「『一つの中国』原則」を承認していると嘯(うそぶ)く中国。いずれもフェイクであり、信頼できる相手ではないことが明らかになった。

—————————————————————————————–譚 [王路]美(ノンフィクション作家)「台湾は中国の一部」という『一つの中国』、全面受け入れしている国は少数派【JBpress:2023年2月26日】https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/74092

 中国政府は長年にわたり台湾は中国の一部だとする「一つの中国」原則を展開し、世界の180カ国がそれを承認していると主張している。

 ところが最近、国立シンガポール大学の政治学系の庄嘉頴副教授が世界各国の公文書を分類・整理したところ、「一つの中国」原則を全面的に受け入れている国はわずか51カ国だけであることが判明。残りの国々は国情に応じて異なる認識を示していることがわかった。

◆「承認する」としている国が51カ国

 中国政府が主張する「一つの中国」原則とは、三段階論からなる。(1)世界にはただ一つの中国しかない、(2)台湾は中国の不可分の一部、(3)中華人民共和国は中国を代表する唯一の合法政府である、という主張だ。

 だが、いくら中国が強硬に主張しても、世界中の多くの国々は自国の国情に合わせて曖昧に受け入れ、独自解釈しているのである。

 博訊ネット(2023年2月19日付)によれば、庄嘉頴副教授はまず、世界各国の公文書にある「一つの中国」原則に対する表記を比較検討し、それを10パターンに分類した。最も多かったパターンは、「一つの中国」原則を認め、中華人民共和国は唯一の合法的な政府であり、台湾は中国の一部である(不可分の一つの省である)として「recognize」(承認する)という用語を使用している国が51カ国あったが、決して中国がいうように180カ国ではなかった。

 さらに残りの約130カ国を9パターンとして、そのうち7パターンでは、中国政府の合法性を承認しつつも、必ずしも台湾に対する主張を受け入れているわけではないことが判明した。

◆ロシアでさえ「台湾は中国の一部」という主張について「尊重し支持する」止まり

 7パターンの表記には、「中華人民共和国が台湾を中国の一部であると主張している」ことを「acknowledge」(認知する)と表現した国が9カ国あり、また、同主張を「take note of」(注記する、留意する)と表現している国が9カ国。「understands and respects」(理解し尊重する)と表現している国が9カ国。中国の主張を「respects」(尊重する)とだけ記した国が2カ国あった。

 注目すべきは、ウクライナ侵攻で西側諸国の批判を浴びているロシアは、中国と強い絆で結ばれているはずだが、どう表記しているかと言えば、「respects and supports」(尊重し支持する)という表現に留まり、明快に「台湾は中国の一部」であるとは承認していないのである。

 ちなみに、日本は1972年の日中共同声明で、「中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する」と規定し、台湾については「(中華人民共和国は)台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し尊重し、ホツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する」としている。

 つまり日本は、「台湾は中国の一部」だとする中国側の主張を「全面的に認めたわけではない」としつつも、「ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持」と但し書きをつけたのである。

 「ポツダム宣言」の第8項とは、1943年11月の「カイロ宣言」で規定された内容を指し、第二次大戦で「日本が奪った台湾と澎湖諸島を返還する」とされたことを改めて明記したのである。もっとも、当時の中国を代表する政権は中華民国政府であり、中華人民共和国ではなかった。

 米国の場合は、1972年の「上海コミュニケ」で、「台湾海峡の両岸のすべての中国人は、中国は一つであり、台湾は中国の一部であると主張している」ことを「acknowledge」(認知する)と記し、日中共同声明と同様、台湾の扱いについては含みを持たせ、将来的に柔軟な対応ができるような表現にしている。

 庄嘉頴副教授の分類によれば、その他の41カ国は台湾の主権について明確に言及せず、また27カ国は、中華人民共和国を唯一の合法的な政府だと承認せず、台湾の主権についても言及していない。さらに14カ国に至っては台湾と友好国であり、「中華民国を承認し、台湾の主権を認める」と表記していて、中華人民共和国と国交を持っていない。

◆台湾との距離をぐいぐい詰めるチェコ

 貿易摩擦が生じるリスクも恐れず、中国の人権侵害を批判しつづける勇敢な国や政治家もいる。

 2020年、中国からの強い圧力が原因で突然死したチェコのクベラ元上院議長の遺志を継ぎ、ピスルチル上院議長が台湾を訪問し、「台湾人とチェコ人は民主主義への道をもがきながら見つけなければならなかった」と述べて、他のEU加盟国からの台湾訪問もあるだろうと語った。

 2022年1月、中国の圧力にさらされているリトアニアに対して、台湾は2億ドル(約230億円)の投資基金を設立した。リトアニアが2021年に台湾の出先機関を「タイワン」と表記して事実上の大使館とみなし、中国が主張する「タイペイ・チャイナ」としなかったことから、中国が外交関係を格下げして経済制裁を科しために、経済的に窮していたからだ。

 他人を服従させる方法は「金」か「暴力」かのどちらかしかない。経済大国であり軍事大国でもある中国は、そのどちらの手も使っている。これには眉を顰めるしかないが、本心から服従する者はいないだろう。

 総じていえば、目下の国際情勢では、中国を独立国家として承認するものの、「一つの中国」原則について承認している国はそれほど多くはなく、今後の成り行き次第では、どう変化するかわからないということだ。

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譚[王路]美(たん・ろみ) ノンフィクション作家1950年、東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。海外技術者研修協会日本語非常勤講師、慶應義塾外国語学校中国語講師、慶應義塾大学経済学部講師、同大訪問教授などを歴任。現在はアメリカ在住。主な著書に『ザッツ・ア・グッド・クエッション! 日米中、笑う経済最前線』『帝都東京を中国革命で歩く』『中国共産党を作った13人』『革命いまだ成らず─日中百年の群像』、『戦争前夜 魯迅、蒋介石の愛した日本』『中国「国恥地図」の謎を解く』など多数。

──────────────────────────────────────※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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